付き合って初めての誕生日にプレゼントしたノーブランドの腕時計。もう何年も秒針が止まったままなのに、未だに身につけて出掛けるのをよく目にした。意味ないじゃないそれ、なんて、小言をひとつ口にする度、決まって気に入っているからと新しい物に替えようとはしなかった。

「それで、どうしたの」
「予想はつくだろ」
「まぁね」

足繁く通ったお気に入りのカフェ。こうして肩を並べて来るのもこれが最後かと思うとどこか感慨深い。いつもの並木通りを見渡せる窓際のテーブル、大好きなシナモン入りのカフェラテ。普段と変わらぬ空間の中、私達の間に流れる空気だけがいつもと違う。

「どこが良かったの」
「まぁ、全部だな」
「テキトー」
「あは、本音本音」
「どうかしらね」
「だっておまえ完璧じゃん」

ひとつのものをいつまでも大切にする男なのだ。それは、物であっても、人であっても。たった1度の事。だけど、そんな人間に裏切られて強くいられるほど、私はまだ大人になんかなれていない。

「じゃーね」

ガタ。立ち上がった序で素早く2人分の伝票を手に取ると、すかさず物言いたそうな目と目が合う。逸らすように下へと落とした視線の先には、やはり今日も変わらずにそれがあった。

「いい加減、新しいの買いなさいよね」

数時間ぶりの外はまるで冷蔵庫だ。アスファルトに散らばる銀杏の枯れ葉を絨毯に、見慣れた大通りを一歩、また一歩。窓際の席から向けられる視線に、最後まで気づかないふりをした。

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