こんな筈じゃなかった。シーズン真っ只中、壮大なエメラルドグリーンで心ゆくまで游いで、思う存分肌を焼いて、気が遠くなるほど待ちに待ち焦がれた有休を謳歌するはずであった。悩んだ末にちょっと奮発して買った半年ローンのビキニだって、口があったらきっと悲嘆の声をあげたに決まってる。

「イヤー!ってね」
「うわ、いきなり叫ぶなよ心臓浮いたわ」
「叫びたくもなるわよ!あー!あついあついあつい!」
「うるせ」

あまりに早過ぎたエンジンストップ。さすが格安で譲り受けた中古車。潮風靡く海岸線に位置する有料道路に取り残された一台と二人。熱を帯びたアスファルトに照り付ける西陽が嫌に眩しい。

「車中泊とか言わないわよね」
「んー途中にラブホあったしそこで良くね」
「最悪」

また来ればいいじゃん、なんてよくも無神経に言ってくださる。脱力と落胆のバロメーターはとっくに限界値を越えた。おまけにントンもする鉄の塊を押し続けたせいで、全身筋肉痛のオンパレード。頗る嫌だけど背に腹は変えられない。

「厄日ね」
「まぁまぁ、いっそ新婚旅行でリベンジすっか」
「なにそれ」

悪くないかも、なんて。ただただ防波堤に打ち付ける波の音だけが虚しく響き渡るのだ。

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