既婚

カランコロン。無造作にグラスへ注がれた緑色の炭酸飲料をストローで掻き回す。果汁ゼロパーセント。所謂メロンソーダと名称付けられたそれにメロンなんて物は恐らく微塵も含まれていない。ならばこの鮮やかな緑色とそれに似た仄かな香味は一体何種類の着色料、香料、エトセトラが生み出しているんだろう。自動販売機にて総額ワンコイン。何だか急に有害に思えてきたこれは、それはもう悪びれた様子もなく堂々と朝帰りを為出来した無節操な夫からの気持ちばかりの謝罪品、だと勝手に解釈してみる。

「あっちぃー、やべぇな今年の夏は。近年稀に見る異常気象だぜ。ヒートテック現象だっけか」
「ヒートアイランド、ね」
「相変わらず細けぇなおめぇは。あー、シンオウに引っ越してぇ」
「向こうの冬は極寒よ」
「ばーか、冬はこっちで暮らして夏だけ向こうに行くんだよ」
「良いご身分ね」

初夏独特の生温い風が鼻を掠める。あ、プチサンボンの香り。無論、持ち主は彼でも私でもない。全く困った。証拠をひとつ掴むと、途端に妙な探究心が湧いてくる。女ってこわい生き物よね。

「なんだよ」
「髪の臭いを嗅いでるの」
「変態?」
「うちのシャンプーじゃないわね、これ」
「風呂でも入るか、一緒に」
「嫌よ暑苦しい」

額に、瞼に、頬に冷たい唇が触れる。強引に引き寄せられたそこは先程まで独占されていた白い生地の上で、天井をバックにじっと見下ろされていた。嗚呼、またこの流れだ。自分勝手に酔いしれた瞳と、吐き気を誘発する次の一言で全てをうやむやにされる。

「愛してるぜ」
「よく言うわよ」
「ちったぁ信用しろよ、それより」
「入らないわよ」
「知ってっかクリス、暑い時のセックスは格段盛り上がるもんだぜ」
「はぁ?」

都合良く流される女にだけはなりたくない。のに、この腕を振り払う事ができないのは他でもなく、このどうしようもない男を心底愛してしまっているからだ。結局、一番どうしようもないのは私よね。

( Happy birthday! )
今年も大好きな夕夜姉さんに最大級の愛を込めて。お誕生日おめでとうございました!


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