俺の幼い頃の話をしようと思う。結論から言わせてもらえば俺は昔からレッドの事が大好きで大好きで仕方がなかった。それは間違いない。そして同じくらい俺はレッドの事が憎くて、大嫌いで、妬ましかった。それでも今は俺もレッドも普通に仲が良くて、まあ恋人的な関係に至るわけだ。そんな面倒な関係の今はジムリーダーでレッドの恋人兼親友、及び幼馴染の、醜い話。

恥ずかしい話なんだが、俺は小さい頃苛められていた。今の子たちがする苛めよりは格段にマシだとは思うけど精神的にも弱かった俺にとっては大ダメージ。何で苛められたのか、なんて理由は全然分からないまま理不尽にも俺は苛められっ子だった。そんな中、レッドは苛めっ子でも苛められっ子でも、ましてや中間にいる人間でもなく、所謂空気的な存在だったのかもしれない。空気。それは誰にも相手にされない、存在がないものとして扱われるという事。俺より酷い扱いだと今となっては思うが、その時の俺はレッドみたいになりたかったんだ。相手にされなければ苛められる必要もない、という幼稚な考え。だから俺はレッドの事を尊敬もして、好きになって、だけど妬ましく思った。ペアを作って、と先生が言うと俺には恐怖の時間で、なんて事言うんだ。とその先生を本気で殺してやりたくなった事がある。理由は簡単。友達がいないから。慣れるように努めても人間ってそう上手く出来てないもんでさあ、全然慣れなかったんだよな。必然的に俺は空気のレッドと組む事になって、何回目だっけかな。うん、取り敢えず何回目かでレッドと組んだ時、俺は言った事があるんだ。おまえはいいよな、苛められなくて。それを言ってもレッドは頷くとか何もしなかった。元々無口だし、それは俺も分かってた事なんだけど思いきり追い詰められてた俺はレッドに対して何か言えよ、と怒鳴った。動じる様子もないレッドに俺も俺で諦めがついてさ、作業に戻ったわけなんだよ。そしたらレッドがいきなり念仏を唱えるように、というか呪いをかけてるような感じでぼそぼそと違うよ、と言ったもんだから俺も流石に驚いたっけ。

「違うよ。グリーンは、僕より幸せだ」
「…なんで」
「だって皆に相手にしてもらえるでしょ?」

目を伏せて、自嘲気味に笑ったレッドの顔は今でも忘れられない。驚いた俺に気付いたレッドはふわり、と笑って言った。泣きそうだった俺の額に自分の額をつけて大丈夫、グリーンは将来幸せになれるよ、と。久し振りに見た笑顔だった。それからというものの俺の友達はレッドになって(元々幼馴染なのにおかしい話だ)、苛めにも何とか耐え抜いて、ポケモンを貰って旅をして、話せば長くなるんだがレッドがシロガネ山にいると聞いて俺も向かって。今は俺の家にたまに来る。長い付き合いだ。

「何考えてるの。難しい顔して」
「ん?ああ、昔の事思い出してたんだよ」
「お互いしかいなかったよね、友達といえば。おれ、空気だった」
「あっはは。何おまえ覚えてんの?」

ぐしゃぐしゃと頭を撫でてやれば嫌でも覚えてるよ、と笑う。おれがグリーンに言った事、覚えてる?とレッドが抱き付きながら聞いてきたもんだから俺は当たり前だろ、と言い抱き締めた。俺は将来幸せになれんだろ?ていうかなったじゃん。この苛められてた俺がさ。おれが言ってた事当たったでしょ、と得意気に言ったレッドをまた強く抱き締めると痛いよ、と声。そしてお腹空いた、という言葉に苦笑いした俺は思う。昔の苦労ってさ、未来に幸せになるためのものなんじゃねーのかなって。早く作ってよ、と言いながらも背中から手を外さないレッド自身が幸せの象徴なんじゃないかって。レッド。おまえも、幸せでいてあって欲しいよ。

(不幸に敬意を)



くろかげ>>くろかげ様/愛憎

初代緑赤で幼い頃の思い出話、です。過去に苦労していてもいつかは幸せになれるんだよ、と。今回は素敵な企画、有り難うございました!





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