ガタガタと乱暴な音をたててタイヤが砂利をケチらしていく。
整備とは縁のない薄闇の道、グリーンは全力で自転車を飛ばした。
両脇を固めた木立の影が高速で通り過ぎていく。その様はまるで檻のようだった

身を切るような冷たい空気の中を身を屈めて突き抜けると、吹き上げた風にわす
かばかり潮が香る。
不意に腹にまわされた手に力がこもるのを感じた。

「グリーン、もっと速く」

平淡な声に急かされて思わず舌打ちをする。

「お前なぁ、レッド!これでも全力なんだよ、文句あんなら自分で漕げっ」

背中にへばりつく熱が強まる。
うなだれるようにレッドの体が密着する面積を広げたのだ。
もうすぐ明け方。
朝焼けの差す空に追い立てられ、スピードを上げようと喘ぐ。
海への道はまだ遠かった。
顔の見えないことを歯がゆく思いながらグリーンは背中の気配を探る。
非常識な時刻に突然の訪問。おまけにこの寒い中、海が見たいとレッドはぼやい
た。
悪態にと開けた口をまた閉じる前に腕を取られ、気づけば彼の自転車に引き上げ
られていた。

「なんにも聞かないんだね」

かすかに落ちた呟きを風に流す。
レッドの指先が上着を握り締めたがそれにも気づかぬ振りを決め込んだ。
届かないように、聞こえないように、そっと。

「答える気があるなら聞くさ」

その時、強い光がグリーンの目を刺した。並木が途切れ視界が開けたのだ。
道沿いに広がる海と空が昇りかけた朝日に焼けて染まっていく。
鮮やかな色彩に目を奪われたのもつかの間、レッドの手が肩に移動した。どっと
増した重みにハンドルが切れる。

「なっ、いきなり立つなっ…うあ!!」

斜めに揺れたタイヤが砂利を噛み、車体は無残にも土手を転がり落ちた。
死に物狂いで伸ばした腕を抱え込んだ時には肩から地面に接触した体が勢いよく
跳ねていた。

「グリーンッ」

衝撃に閉じた目を開けるとレッドが泣きそうな顔で彼を見下ろしていた。
動揺しているのかいまだグリーンの上から動けないでいる。
背中を打ち付けたせいで息がうまくできない。もちろん声を出すこともできず、
どうにか片手をレッドの手に重ねた。
固く強張っていた顔が見る間に泣き崩れていく。
錆び付いて鈍くなった引き金はどうやら弾けてしまったようだ。押し殺す声もな
く涙だけが止めどない。
ようやくと言った体で、グリーンは息を大きく吐いた。

(あぁ、メンドくせぇヤツ…)

溜め込むだけ溜め込んで、自覚もないまま途方に暮れる。
あの旅から会う回数は減った。
このまま緩やかに、気づけることも減っていくのかも知れない。
ただ、立ち止まった彼がすがりつく場所が自分だと言うのなら。それが微かな甘
えだと言うのなら。

「もうヘーキか…?」

問いかければ、レッドは流れるままだった涙を乱暴に拭う。
どこか張りつめていた危うい色はなりを潜めていた。

「グリーンて、たまに呆れるくらい優しいな」

伸ばされる指を受け入れながらグリーンは口端を上げる。
彼にとっては些細なことだ。
会いに来るのが夜中だって構わないし、真冬の海にだって付き合ってもいい。吐
き出したいなら問い詰めて、きっかけが欲しいのなら腕を引いていけばいい。
何度も繰り返したように、何度も繰り返せばいい。

(でもなレッド)

細められた目尻を撫でた最後の一雫が頬を伝った。



「そんなのお前にだけだ」



スエ>>ぼんわか

緑と赤が隣り合ってるだけでニヤニヤします。仲良しでもケンカが絶えなくとも
もうずっと一緒にいればいいのに
ステキ企画に乗っかってグリレの更なる盛り上がりを密かに期待しております






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