ある少年はとても優しい人だった。誰にでも何者でも優しくする少年だった。しかし、少年は、ただの人間。人並みに傷つくし、嫌いなものだってある。それでも、人に優しくするのをモットーに生きてきた所為か、例え傷つくことがあろうとも我慢をし続けて、人に接してきた。けど、少年は気づいてしまった。それではダメなのだと。人はそれでも何も変わらない。寧ろ、悪化していく一方だと、少年は知ってしまった。そのことに、傷ついてしまった。少年が今までしてきたことに意味はない。あるとすれば、逆効果なのだと。

少年は双眸から涙を流した。今まで、何があっても流すことがなかった涙を流し、流し続けた。紅の瞳から流れる涙は透明で透き通っていて、それが当たり前な筈なのに、初めて流す涙だからだろうか、とても綺麗に見える、その涙。だが、少年は止まらぬ、その涙を怖く思えて仕方がなかった。だから、少年は姿を消した。この涙から逃れるように姿を隠した。誰にも何者にも言わずに、白い世界へと飛び出した。白い世界には少年一人だけ。もう、誰かを気にする必要もない。
涙も自然と止まっていた。嗚呼、これで良かったのだと心底少年はそう思った。
だが、それを破壊するかのように、ある人間が現れた。少年は、久しぶりに視界に入った人間を眩しく見えて仕方がなかった。





「よ、レッド」



 久しぶりに聞く人間の声。久しぶりに聞く自分の名。少年にも名前があったというのに、此処に来る時捨ててしまったかのように、置き去りにした名。確かに自分の名前だった筈なのに、それが酷く他人のものな気がして少年はびくりとも身体を動かすことができなかった。まるで人形のように、ただ真っ白な世界を映す紅の瞳に色はない。まるで、感情を亡くしてしまったように。ただの人形。

だが、人間は懲りずに少年に話し掛けた。真っ白な世界に自分が映り込むように、屈んで少年の紅の瞳を覗き込んだ。真っ白ではない、色をしたものが視界に広がる。そこで覚醒したかのように、少年はやっと自ら人間へと向き合った。そのほんの小さな行動に人間は顔に笑みをつくりあげた。少年は、その表情の意味も、目の前の人間にも理解ができなかった。



「お前、見ないうちに小さくなった?」

(何で?)

「あ、俺がでかくなり過ぎたのか」

(どうして?)

「ちゃんと食ってんの?」

(此処に?)

「――…レッド、」



 黙り込んで、悶々とする少年に性懲りもなく話し掛け続けていた人間は、漸く言葉を切ったかと思えば、少年の名前を呼んで、包み込むように優しく抱き寄せた。逃げないように、閉じ込めるようなその行為。少年は紅の双眸を丸くしては、顔を上げて人間を凝視した。しかし、欲しい答えは返ってはこない。ただ、少年とは違う色をした瞳がこちらを見返してくるだけ。少年の疑問は残っている間々な状態。そんな、置いてきぼりな少年に追い撃ちを掛けるように人間は、ぎゅうっと、少年を抱きしめる力を強めては、耳許で呟いた。



「お前のこと、ずっと捜してた」

(俺なんかのために?)

「世界から逃げても、俺からは逃げんな」



 震えているのか。少しだけ、掠れた声が耳許で聞こえて少年は酷く驚いた。緩くなった抱擁と共に顔を上げた人間がこちらをじっと見ている。紅とは違う。真っ白とは違う。深い深い翠。視界から閉ざしてしまいたいと思うのに、それが何故だかできない少年は困惑の色を瞳に宿した。少年の瞳に色が浮かんだ瞬間、人間は酷く嬉しそうに笑った。口角を上げて、目尻に涙を溜めて、誰もが見ても分かる程、人間は嬉しそうに笑う


少年は今だに理解ができない人間の行動にびくびくと身体を震わせるが、不器用ながら応えようと、手始めに笑おうと口角を小さくあげた。昔は、簡単に出来たそれも今ではとても難しく思える。きっと、己の現在の表情は見るに堪え難い代物であろう。そう思っている少年とは裏腹に人間は、にっこり、と効果音が似合いそうな笑みで笑い返した。




「ありがとう、グリーン」





少年が人間に戻った瞬間のお話。
(少年と一人の人間しか知らないお話。)






出雲青>>キリンに食べられた少年

この度は、拙い文に最後までお目通しして頂き誠に嬉しい限りです。有難うございました!

補足と言いますか、願望と言いますか。シロガネ山に引きこもった理由が人間不信も良いなと思って書いた作品になるのですが、何年も篭ってたらグリーンが登場。少しだけだけで、昔と同じに戻れるように修業。グリーンは、戻って来て欲しかったけど、温かく見守る。ゴールド(ヒビキ)、コトネ、シルバー(ライバル)とかが、シロガネ山に来るようになる。レッドさん、何だかんだで打ち解け、シロガネ山を下山するようになる。グリーン、少し悔しい。だけど、レッドさんはグリーンのお陰だと思ってる……みたいな!言わないけど、グリーンのお陰なんだよ。的な。補足ではないですね、すみません!

考えていたことが綺麗に表現ができませんでしたが、全力で緑赤の愛を注ぎ込んだ次第です。初代のレッドさんは、不思議ちゃん!ツンデレでもヤンデレでも構いませんが、言動が少し不思議だったり。無自覚に、グリーンを魅力させてたらいいです。初代のグリーンの場合は、クールで大人に見えて、まだまだ子供っぽいとこがあったり、なかったり。色々考えるんだけど、結局はレッドさん第一だから考えてたことなんてポイみたいな。だから、ライバルが増えつつあって、悶々としていたらいい。唯一の味方は、姉ちゃん!二人が良ければ全て良し思考ですけど。そんなかんやで、これからも、お送りしていきたいと思っています。
スペの方の作品でも似たようなことを面々と並べましたが、読んで下さった読者様、素敵な企画を快く参加させて下さったキナカ様、同じ緑赤さん好き様!この度は本当に有難うございました。緑赤愛は不滅です!!



出雲 青








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