朝から雨が降っている。室内は薄暗く、カーテンを開けても大して変わりはなかった。窓を雨が叩き、景色はぼやけてみえる。昔から雨の日は嫌いだった。あの、重たい雰囲気は好きじゃない。窓を眺めながら今日の予定を思い出す。決まっていないのなら傘をさしてあの場所へ行こう。まだ眠そうなピカを優しく撫でて、窓のカーテンをきつく閉じた。あいつは来ること、きっと解ってるよ

だらだらと支度してお昼頃にやっと家を出た。引っ張り出した傘を持ち、ドアを潜って鍵を掛ける。相変わらず重たい空だけど雨は朝よりは幾らかまし、持った透明な傘を指して目指すトキワはもう、すぐそこだ。
ジム裏にあるドアを馴染んでしまった合鍵で開け、片手で閉める。濡れた傘はドアに立て掛けて、お邪魔しますと他人行儀に呟いた。薄暗いからかいつもより静かに感じるそこは微かなグリーンの気配と雨の音とが入り交じる。ふぅと息を吐いて二階にある自室兼仕事部屋へ続く階段を登った。軋む冷たいこの階段を何度登ったのだろう。

「…グリーン?」声を掛けて覗いた部屋は暖かく、部屋の主であるグリーンは机に向かってパソコンと資料を眉間に皺を寄せて格闘中だ。オレをちらりと見て、それからまた作業に戻る。この無愛想な挨拶にも慣れてしまった。これでこそグリーンでオレ達だ。甘い雰囲気なんていつもはいらないだろ?たまに、位が丁度いい。

「仕事か?」
「……あぁ。」

ふーん、と適当に流して近くのベッド 真ん中に座った。ふかふかのそれは結構気に入ってる。だけど暇には代わり無く足はそのままに身体だけ左へ倒した。視界には白いシーツと壁と仕事中の背中。肩甲骨は羽が生えてた名残だって言うけれど、グリーンにそんなイメージは無いなぁと無気力に思った。相変わらずパチパチとキーボードを弾く音と資料を捲る音と、ほんの少しの雨音。雨の日だけでこんな弱る自分は少し、おかしいのかもしれない。見慣れた視界を片手で覆って身体を丸めた。グリーンが今どんな顔してるか、パソコンの画面しか知らないのは少し寂しい。

それからいつの間にか眠ってしまっていたらしく重たい目蓋を薄く開いた。だけど目の前は真っ暗で、微かな光を頼りに少しだけ顔を上げれば見えたのはグリーンの顔だった。律義に布団まで掛けられ、それを掛けた本人も一緒に眠ってしまったんだろう。オレに寄り添い眠る姿は可愛いのに、仕事中の背中は同い年かと疑う位大人びて見える。布団を掛け直しお疲れ様、と起きそうにないグリーンの目蓋に小さく口付けてた。そしてゆっくり身体を起こし、グリーンの部屋からベランダへと向かった。さすがに裸足は少し寒い。おまけみたいなベランダは狭くて、横歩きできる位の広さしかない。そのベランダにある冷たい柵に手を掛けて、夜空を仰いだ。朝の重たい空は嘘みたいに星がよくみえる。雨雲は影さえ見えず何処へいったのか解らなかった。そしてグリーンの顔が良く見えたのは月明かりのおかげらしく、綺麗な満月が静かに辺りを照らしていた。
照らす月は見れば見るほど吸い込まれそうだ。このまま暗闇溶けて月の光を際立たせるのもいいかもしれない、なんて、眠りから覚め覚醒した頭はどうでもいい事ばかりを紡ぎ出す。

「(やっぱり今日はおかしいかもな)」

苦笑に近い乾いた笑いは冷たい夜の空気に混ざって消えた。それと同時に頬に温かい温度が触れて思わず身体が跳ねる。その正体は湯気を立てるマグカップ。渡したのはさっきまで眠ってたはずのグリーンだった。ありがとうと受け取りつつ気付かなかった、と言えば随分考え込んでたなとグリーンはカップに口付ける。どうでもいいことだよ、と笑ったところでグリーンには何もかもお見通しかもしれないけれど。
握ったマグカップの温かさはオレを少しずつ溶かして、肩の力が抜けるのが解った。隣に並んだグリーンはそうか、と一言呟いてまたカップへと口付ける。それからオレの頭へ伸びた手が髪をくしゃりとかき混ぜる様に撫でた。考え過ぎるな、と隣から降る言葉は優しくオレには勿体無い位だった。

「…ん。グリーンも仕事詰めすぎるなよ。んで、お疲れ様。」

グリーンに向かって笑えば唇に冷たい感触、グリーンが意地の悪い顔で笑っていた。オレもオレで、口元に笑みを浮かべたまままたその唇へと噛みつくようにキスをした。只でさえ狭いベランダに、グリーンの腕がオレを包み、必然的にくっついた身体から体温を奪い奪われ、お互いが同じ体温になる。唇を離した所でマグカップの珈琲は冷めていて、おでこをくっつけたまま二人で笑った。
久々のグリーンの体温は心地よく、離したくなかった。グリーンも同じ気持ちだといいな、って密かに思ってみたり。
温かさを無くしたまずい珈琲に口付けながら他愛ない話をして。嫌いな雨の日さえ好きになれる気がした。



愛の言葉より
欲しいものは幾らでもある
例えば「隣にいて欲しい」だとか
その位が丁度いい






かず>>桃黒

本命緑赤です。参加させて頂きありがとうございました!グリーンさんとレッドさんはドライな関係だといいなと妄想する毎日です。23巻は同人誌(*^^*)
緑赤に愛を込めて!
ありがとうございました!





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