人間は我らの大切なものを奪った罪人である。
よって、人間に近づく無かれ。
この禁忌、破りし者は死をもって償うべし。
そは、我らの裏切りを意味するのだから。
第五話
「そしたらね、そのジグザグマったら臆病で、慌てふためいた後に目の前にあった木にぶつかって気を失ってしまったんだよ」
「あははっ、本当かよ!面白いな、それ!!」
「こんな話はあまり聞けないでしょ?」
「うん、これは野生のポケモンが身近にいないと中々聞けない話だな。
他には面白い話とか、ないのか?」
「うーん。
ブラック君が一生懸命聴いていてくれたから後はもうないや」
俺達はレシラムの眠る横で語り合っていた。
Nの怪我はもう治りきっていたのだが、俺の怪我が未だに完治していなかった為、動けずにいた。
暇を持て余していた俺達は只、そうやって時間を過ごしていたのだった。
「そうだ、今度はNのことを教えてよ。
俺はNをもっと知りたいな」
そういった後、Nは目をぱちくりさせた。
頬を少々赤らめてごにょごにょと「ボクのことを知ったって、何も面白くなんてないよ・・・・?」だの何だのと言った。ああもう可愛いなぁ、カミツレさんやフウロさんもステキだったけれど、なんと言うか。
別物の可愛さなのだろうか、笑顔のNを見ているとこう、心が満たされる気がする。
毎日のように、挑戦者を倒してはまた倒していた、あの荒んだ生活で得た心の荒みを洗い流してくれそうな、そんな感覚。
決して大げさには言っていない。
要するに、俺はNに恋をしているのだ。
今まで恋愛には縁の無かった俺は「は?恋人なんぞいなくたって生きていけるんだろ?じゃあ興味ない」という思考の持ち主だったが、今日から改めることにする。
「ボクが普通じゃないからって差別しない?」
なんだ、そんなことまで気にしているのか。
「しないしない」と首を横に振れば、Nはうーうー呻いて尻尾をぱたぱたさせた。
相当悩んでいるようだ。
「…じゃあ、言うね。
ボク、半分ポケモンなのにポケモンの技が…出せないん…だ…」
Nは床にへのへのもへじを描いて顔を俯かせる。
Nの顔は、此方からでは見えないが、きっと落ち込んでいるか、恥ずかしがっているかの二択だろう。
「確かにそれは不便だな…」と、俺は腕を組んで応えた。
「でしょう?情けなくって仕方無いよ。
でも、自分の身に生命の危機が訪れると技を出せるようになるんだ。
その時には理性がないから本能の赴くままに動くと思うけど…」
「それはそれで不便だな」
「うん…」
そのままNは黙ってしまった。
この時の俺は本当に愚かで、Nの重い言葉を理解しきれずにいたんだ。
Nは本当に悩んでいたのに。
自分に降りかかる、影から逃れるための力が欲しくて。
強くなりたくて。