「は?ルーファスに逢わせてほしい?」
「ああ、逢ってみたい」
大広間から寮の談話室へ息を切らせながらやってきたドラコに、ルーファスに会わせろと突然言われたレディーは、思わず開いた口を塞ぐことが出来ずにいた。
「どうしていきなり」
「なんでもだ」
「別に構わないけど、次会うのは春休みよ?」
ドラコは縦に首を振って頷くと、レディーに近づき人差し指を向けながら言い放ったのだ。
「絶対に忘れるなよ!」
(何なのよ)
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今日は三大魔法学校対抗試合の最終日だ。水中戦ではハリーは二位となり、最年少ながらなかなかのいい成績で最終日まできている。
そんなポッター嫌いのドラコは、最後まで残っているハリーにかなりイライラしていた。
「なんでポッターが残っているんだ…あの傷ものめ」
「ドラコ、口悪すぎ。ハリーポッターだって、きっとやりたくてやってるんじゃないわよ」
「ふんっどうだかな」
会場までの道のりを二人で歩き、最終種目が行われる所までたどり着いた。スリザリンの席を探すと、オルガが「こっちよ」と手招きする。
席にはオルガとランドールが座っていた。自分はオルガの隣に腰を下ろして、その自分の隣にドラコを座らせた。
「ちょっと何?クラッブのおでこ」
「え?」
クラッブに目を向けるとおでこに「クラム」と赤字で書かれている。思わず口に手をやりクスクスと笑ってしまった。
そういえばドラコとクラッブとゴイルはビクトール・クラムが大好きだったっけ。
隣に座っているドラコもクラムの登場時にははしゃいでいた。
「どこがいいのよビクトール・クラムなんて」
「お前はわからなくていいよレディー」
ドラコが鼻で笑うので、視線を逸らし会場の中心にいるクラムに目を向けた。
一瞬だが彼と目があった。
ハーマイオニーに向けているような優しい目線ではない。私を嫌うようなそんな目線。
クラムと会話をしたことはない。なぜあんな目で見られなければならないのだ。もしかしてドラコを見たのか?それはそれでなんだか嫌だが…
フィルチが開始合図をまたも間違い競技はスタートとなった。
「ねぇ、ドラコってクラムと話したことある?」
「あぁあるよ。サインも貰った。凄くいい人さ」
嬉しそうに言うドラコに、クラムが見ていたのはドラコではないと確信した。一体なんだというんだあの視線は。
「…どうしたの?レディー」
「あ、いや別に何でもないのよ」
オルガが心配して覗き込んだ瞬間、巨大迷路から花火が打ちあがった。救助の花火だ。誰かが迷路の中で危険な目にあったのだろう、会場がざわついた。
「誰かしら…」
迷路から救出されたのはフラーだった。体は震え、迷路の中が壮絶なものだということが伺える。
時間も間もなく次に救出されたのはクラムだった。ドラコは残念そうに頭を抱え、彼のファンである女子生徒も鳴き声をあげている。
「残るはセドリックとハリーポッター…」
レディーは呟き迷路の方を見た。入ってからかなり時間が経っている。
彼らはまだ出てこない。
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しばらく経ち、優勝カップと一緒に勢いよく転がり込んできたのは、ハリーとセドリックだった。全員が歓声を上げ二人を祝福している。
「凄い!!ハリー最年少じゃない!セドリックもさすがイケメン良くやるわ!」
オルガが立ち上がり拍手をする。ドラコは隣でそれはもう残念がっていたが、レディーだけは動かないセドリックへと視線を向けていた。
「ねぇちょっとセドリック変じゃない?」
「「「え?」」」
ドラコ、オルガ、ランドールが一斉にセドリックへと視線を向ける。ハリーがセドリックから離れず唸り泣いているではないか。そしてハリーは静かになった会場でダンブルドアに向かってこう叫んだ。
「殺された!セドリックが、あいつに!ヴォルデモートに!」
心臓が音を立てて跳ねる。
会場にいる人々の先ほどまでの喜びは消え失せ、絶望を孕んだ表情に変わっていた。
「例のあの人が帰ってきたの!?ねぇレディー私たちどうなっちゃうのかしら」
「…」
「レディー!顔が真っ青よ!!?」
「気持ち悪い…」
真っ青な顔をしたレディーは口を抑えていた。オルガは倒れそうになるレディーを抱きとめ名前を叫んだ。
「レディー!!!」
「落ち着つくんだスターシップ」
焦るオルガに冷静に言いながら、ドラコはレディーの肩に手を置いた。
「レディー、歩けるか?」
「マルフォイ…レディー大丈夫なの?」
「これは無理そうだな。ランドール、みんなに呼びかけて道を作ってくれ」
「ああ、任せろ。みんな、病人がいるんだ!道を作ってくれ!」
ランドールの言葉を聞いた生徒は、レディーを心配するように道を開けた。ハリーの次はレディーか?とみな顔を強張らせてその様子を見つめた。
ドラコは道が作られたのを確認するとレディーを抱き上げ歩きだした。顔色の悪いレディーが通るたびに声をかけられる。
「ドラコ!レディーは大丈夫なの!?」
「ああ、大丈夫だ。朝食を無理して食べ過ぎたのかもな」
パンジーも唖然としながら聞いてきたが、ドラコは微笑して応えた。安心してもらえるように声を掛けているが、ドラコの表情には余裕がなかった。急いで医務室へ連れて行こうと焦っている。
一年の女子生徒に声を掛けられた。スリザリンのようで、一年生の頃のレディーに雰囲気が似ている。
ドラコがなんだ?と聞くと、
「花嫁は大丈夫ですか?花婿さん」
と言われた。ドラコに話しかけたこの女の子は、ダンスパーティーでレディーのファンになった子らしく、酷く心配している。
「ああ、大丈夫だ。何たって僕の花嫁だからな」
「なら良かったです呼び止めてごめんなさい」
ドラコはその後は何も言わずに医務室へと走った。
(花嫁さん花嫁さん、あなたはどうして倒れたの?)
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