レディーを見つめる生徒に、冷や汗をかきながら足を一歩踏み入れる。
ヒールが氷の張った床に当たるたび、静かな広間に音が響いていた。
レディー・エジワールだ。
ホグワーツをやめた子だ。
凄く綺麗だわ。
あれってウエディングドレスじゃない?
生徒がひそひそと会話を交わす中をゆっくりと歩んでいく。そんな姿を見てマクゴナガルは目を開かせた。
「レディー!校長、あの子は学校を止めたはずでは」
「だから言ったじゃろ、お客様だと」
「いったいどうして…」
「レディーは家で唯一のスリザリンじゃ。きっと完璧主義の母親がレディーがエジワールの名を呼ばせなくするために、戦略結婚をされそうになっていたのじゃろう。ホグワーツを止めるとわざわざ アノ母親から手紙が来たのじゃ。そうとしか思えん」
「そうだったのですか…」
「ほっほっほ、しかしまさかウエディングドレスで来るとは思ってなかったがのぉ」
ダンブルドアはレディーの姿を見て朗らかに笑った。そして視線をドラコへと向ける。彼は人混みの奥の奥で椅子に座っていた。
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その頃、遠くにいたドラコは急に音楽が止んだことに気付いた。
先ほどまでぼんやりと外の星を眺めて物思いにふけていたが、何事かと思い近くにいた男に尋ねた。
「おい、何があったんだ」
「あ、あぁ。ウエディングドレスを着た女の子が来たんだ、誰かわからないけ…ど!!」
男子生徒が教えている途中でドラコは胸元を掴んで勢いよく揺さぶった。少し太っている男子生徒は涙目になりながら「何するんだ」と対抗している。よく見るとグリフィンドールの学生だ。
「今なんて言った!?」
鬼のような形相で聞いてくるドラコに男は奮え、声をかすれさせながら答えた。
「ウ、ウエディングドレスを着…た女の子が…来たみた…い…なんだ」
「レディー・・・」
ドラコはぽつりと呟くと、人混みの方へ駆けていった。
ウエディングドレスと聞いてすぐにレディーが思い浮かんだ。ずっと待っていた最愛の人が、この広間のどこかにたどり着いたのだ。
人混みをかき分けて進む。飲み物を持ったカップルを跳ね除け中央へとどんどん歩み寄っていく。
そんな中央付近ではレディーがキョロキョロとドラコのことを探していた。
その様子を見て駆け寄ってきた生徒が一人。
「レディー…!」
「オルガ!!」
オルガはレディーに抱きつき涙を流した。レディーも嬉しくなりオルガをぎゅっと抱きしめる。
体を離すとオルガはレディーの姿を見てまた泣き出してしまった。
「貴女なんて綺麗なの。まさかウエディングドレスで来るなんて…それに私、もう二度と貴女に会えないかと」
泣き出すオルガがレディーに再度抱き着いていると、レディーの視界には最も会いたかった人物が泣きそうな顔で立っているのが目に入った。
抱きしめる力が弱くなったことに気付いたオルガは、レディーの視線の先を追った。
そしてサッと体から離れランドールのいるところまで小走りし、二人の様子を手を合わせて見守った。
「ドラコ…」
生徒は二人の様子を察し、円を描くように丸くなり、レディーとドラコの周りを囲った。
「レディー!」
「…ドラコ!!!」
レディーはドラコに思い切り抱き着き、ドラコはそれを受け止めた。ドレスがひらりと揺れる。
「ドラコ…待たせてごめんなさい」
「最後まで信じてよかった。おかえり」
レディーを力一杯抱きしめ、頭を撫でてやる。
周りの生徒もそれを見て泣き出す者まで現れグスグスと声が聞こえる。
「結婚相手のルーファスが逃がしてくれたの…それに屋敷しもべのカロンも」
「…よかった、本当に」
体をゆっくりと離し、顔を見合わせるとドラコの瞳からは涙が溢れ頬を伝っている。
レディーは優しく手で拭き微笑んだ。
「もう離れない、離れたくない」
「僕もだレディー」
二人が互いに気持ちを伝えると、ランドールがその場から声を上げて言った。
「踊れよドラコ!まだ踊ってないだろ!!」
ランドールの声に載るように他の生徒も叫んだ。拍手まで沸き起こり広間全体が二人を促している。
「そうだ!踊れ花嫁!!」
「踊って!!」
「一番素敵なダンスをして!」
寮など関係なく全ての生徒が言った。レディーは目頭が熱くなり、その場に泣きながら崩れ落ちた。
そんなレディーにドラコはそっと手を差し出し、微笑みながらこう言ったのだ。
「僕と踊ってくれるか?」
レディーはもちろんよ、と頷き、ドラコの手を取り立ち上がった。
拍手が大きくなった。フリットウィック先生が指揮を上げると、ホグワーツのオーケストラが美しい演奏を始める。生徒達は二人のダンスに心を奪われ、じっと見つめていた。
練習の時よりも素晴らしいダンスだとスリザリンの生徒は感じていた。
動くたびに揺れるウエディングドレスも、髪の毛も美しかった。なにより練習より違ったところは、2人が本当に幸せそうに微笑み合っているという点だった。
ゆっくりと音楽が終わると、広間は拍手の音で包まれた。
ダンブルドアもマクゴナガルも拍手をして「お見事」と言って微笑んだ。
そんな様子をみたレディーは、バンドで来ていた妖女シスターズにお願いをした。
「一番ロックなのをお願い!」
ウインクをすると、ボーカルの男性が指を立て、ベースが音を立てて演奏がスタートした。
踊らずに二人を囲っている生徒にレディーは笑顔で言う。
「みんな何してるの?今日はみんながスターになれる日よ!!踊りましょ」
ポカーンとする生徒を他所に、オルガは親友の明るい言葉に微笑んだ。ランドールはそんなオルガの手を取りレディーとドラコの方へと走る。
「オッケーレディー!俺たちも踊るぜ!!」
他の生徒もパートナーの手を取り踊り出した。レディーは満足げに笑い、ドラコとのダンスを再開した。
そんな生徒達を見守るダンブルドアはマクゴナガルに言った。
「The dance of the bride(花嫁のダンス)じゃな」
「とても綺麗ですわ」
音楽はまだ鳴り止まない。多くの生徒が演奏に乗せ体を動かしていると、ドラコがレディーの腕を引き広間の外へと連れ出した。
何人か広間前の廊下にいるが、殆どは中だ。ドラコは人が誰もいないところまでレディーの手を引いて歩んだ。
レディーは何も言わずにドラコについていった。つながっている手の暖かさに涙が溢れそうになる。
離れている時感じられなかった体温が手を伝って心臓まで届きそうだ。
大広間からかなり離れ、ようやく誰もいないところまでたどり着くと、ドラコは振り返りレディーを抱きしめキスを落とした。
「んっ…!」
突然のキスに呼吸が乱れた。何度も繰り返され息が切れていく。
「ド…ドラコちょっとまっ…!?」
レディーが喋ろうとすると口内に舌を入れられた。苦しくなって、でも嬉しくて足が力を無くしていく。ドラコはレディーを支えながら何度も深い口付けを交わした。
静かな空間にリップ音が響く。
ようやく離され、レディーは息を整えることに必死になった。
涙目でドラコを見ると彼の頬は真っ赤に染まっており、余裕がないことが伺えた。レディーの胸がキュンと音を立てた。ドラコの頬を両手で包み、軽いキスを落とし微笑む。
「ごめんレディー、余裕なくなって。苦しかっただろ?」
「ばかね、そんなの。全然大丈夫に決まってるじゃない」
2人は笑って、また抱きしめあった。レディーの頬には涙が伝っている。会えなかった時間が今の二人を密にしていた。
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