スクリムジョールもいなくなり、ビルとフラーの結婚式も順調に進んだ。今度は庭でパーティーをするらしい。
天気が悪くならなくてよかった。曇っていたから心配していたのだ。
「レディー!早く」
「外に行こう!」
「ちょ、ちょっと!」
フレッドとジョージに手を引かれ、自分たちが建てたテントへと入る。中ではビルとフラーが手を繋ぎながら踊り、多くの人に拍手をされていた。
羨ましい限りだ。私も少し前まではこんな楽しげな結婚式を望んでいた。ドラコならこんなテント嫌だと言いそうだが、結婚式が出来るだけいい。
「レディー!」
「ルーナ!」
黄色いドレスを着てレディーの前に現れたのはルーナだ。ハリーにはさっき挨拶してきたの。と嬉しそうに笑った。
父親も一緒のようでルーナの後ろから現れた。初めての対面で会釈をすると手を差し出される。
「初めまして、ルーナの父のゼノフィリウス・ラブグッドです。どうぞよろしく」
「レディー・エジワールと言います。ルーナには仲良くしてもらってるんです。よろしくお願いします」
「ルーナの話からも良く出るよ。これからもよろしく」
ルーナが肩をあげて微笑んだ。優しそうな父親だ。服の趣味なんかルーナそっくりで、あーこの父親の娘だなって感じがする。
「…」
ゼノフィリウスの胸元をみたレディーは眉を寄せた。スクリムジョールから受け取った日記の裏に彫られていたシンボルマークと同じ模様のネックレスをしていたのだ。ますます謎が深まる。初めて見た模様だと思ったが、魔法界では流行りのものなのだろうか?
「ゼノフィリウスさん、これは…」
「あぁ、死の秘宝だよ」
「死の秘宝?」
「そう。知らないかい?」
レディーが首を横に振った。ゼノフィリウスが「これは…」と口を開いた瞬間、空から青い光の玉が降りてきた。辺りは暗くなり、青い光だけが怪しく光る。
「なに…」
魔法省は陥落した。
魔法大臣は死んだ。
やつらが来る。
近づいてくる。
近づいてくる。
青い光から声が漏れた瞬間大きな爆発音がテントに響いた。爆風でテントは大きく揺れ、ワイングラスは落ちて床に散らばっている。
死喰い人が攻めてきたのだ。
一斉に悲鳴が上がった。人はぶつかり合いながら自分の安全のために逃げ惑った。ハーマイオニーとハリーとロンはレディーを探しテントを駆け回り、人を掻き分けレディーの元へと進む。
「ジニー!レディー!!」
「先に行って!!!」
レディーはジニーを庇い死喰い人と戦っていた。激しい攻防のなかで見せたレディーの気迫に負け、ハリー達は手を繋ぎ止め姿をくらませた。
「ジニー!こっちへ!」
アーサーがジニーを抱き寄せ姿をくらませたのを見届け、レディーは死喰い人に失神呪文を唱えた後同じように姿をくらませた。
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ルーファスは両親が殺されてから自分の家に保護呪文を掛け生活をしていた。そうしないと闇の軍団に嗅ぎつけられてしまうからだ。
前まで保護呪文をかけても、近くまで死喰い人が探しに来ていたが、最近それがなくなった。
例のあの人と死喰い人がマグル殺しに必死になっているせいだ。
完全な安心はできないが、前よりは過ごしやすくなった屋敷で魔法省で使う本を漁っていた。
魔法大臣が殺されたとついさっき連絡があったため仕事が山積みだったのだ。
「まさかスクリムジョールさんが…」
はぁ、とため息をつくと、屋敷しもべのカロンが血相を変えたように部屋へと入ってきた。ノックをしないで入ってきたのだ。よほどのことだろう。
「カロンまた厄介ごとか?」
「ル、ルーファス様!お嬢様がお戻りに!」
「え?」
「レディー様が姿あらわしで屋敷の前に!!」
ルーファスはその言葉に反応をせず部屋を飛び出した。玄関まで大急ぎで行くと、ボロボロのドレスを握り締めながらレディーが走ってこちらへと駆け寄った。
「レディー!!」
「ルーファス!」
「一体何があったんだそんな格好で…」
「簡潔に話すとロンのお兄さんの結婚式が死喰い人に襲われたのよ」
「なるほど…。でも無事でよかったよ。レディーに死なれたら父上と母上に会わせる顔がない…」
レディーを抱きしめ頭を撫でると、レディーは安心したように肩の荷を下ろした。
元あった自分の部屋へと足を進め、ドレスを脱ぎ、部屋に置いてあった服に着替え客間へと急ぐ。客間へにはルーファスがソファーに座りながら待っていた。
「レディー、結婚式にきた死喰い人は何人くらいだった?」
「ざっと見て4人ね。逃げるのに必死だったからよくわかってないけど」
「やはり狙いはハリーポッターだな」
「恐らく。…ねぇ魔法大臣が死んだって本当?」
ルーファスは驚いていた。大臣が死んだのは魔法省の上の者にしか伝えられていないはずだ。レディーが知っているのはおかしい。
ルーファスの様子に気づいたレディーは、結婚式の会場に謎の青い光が現れ、そこで聞いたと伝えた。
「青い玉?」
「ええ。まるで予言のような…そこで聞いたの。でも私は直前まで魔法大臣と会っていたから、殺されたとしたらそのあとね」
「直前まで?スクリムジョールはレディーの前に現れたのか?」
「ええ。この日記を届けてくれたの」
レディーはスクリムジョールから渡された日記をルーファスに手渡した。吟味するように日記を見渡し、裏を見てこう呟いた。
「死の秘宝を信じる者の日記か」
「は?死の秘宝?」
「そう。レディー知らないのか?」
このシンボルマークのことだよ。と、ルーファスは日記をトントンと指差した。
「それが死の秘宝のマークと言うことはついさっきわかったの」
「どこで?」
「ルーナの父親、ゼノフィリウス・ラブグッドさんが同じマークのネックレスを。でも死の秘宝が何かは知らない」
「レディーは吟遊詩人ビードルの本を読んだことないのか?純血の子どもは大抵親に読み聞かせされるんだが…」
そこまで言うとルーファスの口が止まった。レディーの母親はあのサリアだ。幼少時代は相手にされていないので当然ながら絵本も小説も読んでもらったことはない。
ルーファスは申し訳なさそうに謝った。
「いいのよ気にしないで!それで、その吟遊詩人ビードルの本がなんなの?」
「実物を見た方が早いな」
ルーファスはそう言いカロンを呼び出し、本を書斎から持ってくるよう伝えた。
間も無くカロンは本を持ち出し、レディーへと渡した。
「これダンブルドア校長が遺贈としてハーマイオニーに送った本だわ」
「ダンブルドアが…」
「意味のある本なのね」
「きっとな。その中の最後の章に、『三人兄弟の物語』があるだろ。読んでご覧」
「えぇ…」
…昔々あるところに、
夕暮れ時の曲がりくねった道を旅する
三人の兄弟がいました…
レディーは本を開き、声に出しながら読み始めた。挿絵を見ながら。死の秘宝とは何かを知るために。
(日記の手がかりのために)
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