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惚れ薬、別名アモルテンシアってやつは言っちゃえば媚薬みたいなもんだ。好きでもない相手を好きになってしまう薬。三年のある日、私はそれをランドールに飲まされた。

煙たい空間だった。気づいたら目の前にいたのはドラコじゃなかった。まんまとランドールを好きになって、抱きしめてキスまでしてしまった。三年生で最高に「あ〜やっちゃったね〜」なんて思える事件だったのだが、それがきっかけで喧嘩ざんまいだったドラコとお付き合いが始まったのだから人生何があるかわからないものだ。

さて私がいつドラコに恋心を抱いていたかと言われるとどのタイミングかは、よくわかっていないのだ。私的には天文台に誘ってもらった時だと思っているけど、案外もっと前から気にはなっていたのかも知れない。


「嫌よ嫌よも好きのうち」

「何それ」

「嫌だ嫌だと思ってたやつでも、気にしてるってことは好きなのよ」


これで大人になるのねレディー。あははとオルガが笑った。この空間がとても好きだった。満たされている。例え親に愛されていなくても、好きな人がいる。好きと言ってくれる人がいる。親友がいる…私はこの時間違いなく幸せものだった。



それが、だ。

今、この七年生の卒業式の日、思い出溢れる天文台でこの男は私に何と言った?あぁ誰か教えてちょうだい録音しているレコーダーでもあるなら今すぐ爆音で耳に当ててもう一度聞かせて。ドラコのアイスブルーの瞳が青空に映えてひどく美しくて、はにかむこともせず、微笑みながら立っている。

いつかはプロポーズしてくれると信じていた。
どんな風にされるんだろう。ドラコのことだからすっごく高いレストランで、すっごく綺麗な夜景が見えて、なんかもう「僕、今から告白します!」みたいなそんな雰囲気なんだろうなぁ。なんて、そんな妄想はしたことはあった。だがどうだろう。場所は何よりも思入れのある天文台。それも戦いの終わった、卒業式の日のこんな綺麗な青空の下で。


「…」

「…」

「レディー、聞こえなかったか?」

「…き、聞こえた、気も、するんだけど、なんて言うか…」

「…もう一度言って欲しいと?」



そういうわけじゃ…、ドラコを見上げながらそう言いかけた時だ、キスをされていたのだ。優しい優しい彼との熱を帯びた接点に、私は涙が溢れ落ちた。そんな私を見て彼はニコリと微笑みながらもう一度言ってくれたのだ。



「レディーの人生を僕にくれないか?」

「初めから渡していたつもりよ」



左手の薬指の指輪が青空に反射して綺麗に光っている。ここが教会のように、私とドラコは長いキスを交わしたのだ。




私の人生を、今までも、これからも…










「副校長、答辞」


卒業式が始まり、厳粛な雰囲気の中、亡くなってしまった校長先生の代わりにマクゴナガル先生が前に立った。私、オルガ・スターシップはこの日をこんな清々しい気持ちで迎えられるとは思ってもいなかった。
戦いも終わり、ついに卒業式。先生の表情はとても柔らかく、そして綺麗だった。歳を取るならあんなふうにとりたい。そんな風に思る先生だった。


「卒業生のみなさん、卒業おめでとうございます。貴方達は明日から社会へ旅立ちます。ホグワーツの生徒として、恥じぬよう、そして自分を信じて、前に進んでください。あの戦いを生き抜いてこられたみなさんなら、素晴らしい人生を歩んでいけるでしょう。幸運を」


マグゴナガル先生のスピーチを涙を流して聞く私の隣で、ふるふる震えている子がいた。レディーだ。


「ちょっとレディー。厳粛な式の時に」

「緊張するなって方が無理よ次私なのよ」


死にそう。そう付け加えながらローブを握りしめた。卒業生代表の答辞、実はレディーなのだ。本当は学年トップの成績を誇るハーマイオニーだったのだが、ハーマイオニーがレディーがいいと推薦したのだ。レディーは死ぬ気で文章を考えたようだが、今でもこうして震えている。


「卒業生答辞。代表、レディー・エジワール」


私は鳥肌が立ってしまった。だって今まで散々嫌な顔をしていたレディーがいきなり表情を変えて「はい」と言って歩いて行ったからだ。そんな彼女が好きだった。何度でも言うが彼女は綺麗なのだ生き方が。確かに人を小馬鹿にするし先生には喧嘩を売るし校則だって破るけど、芯の強さは誰にも負けないと思う。
私は親友のスピーチを一字一句聞き逃すことなく聞くのだ。耳とはいいものだ。涙を流して視界が悪くても、声は届くのだから。



「…」


しかし前に立ったレディーは何も喋らないのだ。原稿は持っているのに。固まってしまったのだろうか。


「…ごめんなさいみなさん」


会場がざわついた。ドラコとランドールも心配そうにレディーを見ている。ハリーやロン、ハーマイオニー、ジニー、アロマ、レディーと関わった全ての人がレディーを心配そうに見上げている。


「…原稿はつくってある。でもこんな紙切れに書かれたこと、今読むことではないと思ったんです…」


マグゴナガル先生が心配しながら手を合わせた。静かな重い空気が漂う。

レディーは答辞の紙をビリビリに破り捨てた。その奇行じみた行動に会場はさらにざわついている。そんな行動にマグゴナガル先生は思わず眉を寄せたが、レディーが話し始めたのを見て肩を下ろした。


「ホグワーツでの生活は、私にとって人生の転機だった」



親に虐待をうけ、幼少期死んでしまいたいとすら思っていた私は、ここで友をつくり、師をもちました。先生たちは厳しいし、友達との関わりもどうしていいかわからなくなった時もあったけど、私は確かに幸せでした。学校というものは集団の生活を育むためにあると思います。このホグワーツでは四つの寮が存在し、それぞれが競い合っています。でも…必死になっていたその競い合いも今思えば楽しかったって思っているんじゃないかしら。「寮の点数減らされた」
「あなたこの間10点も寮に入れたんですって?」
そんな会話日常茶飯事だった。思い出して?そんな会話もこの集団でないと起こりえないのよ。
人生っていうのは壁があるし辛く厳しいものらしいけど、そんなときはここを思い出して、ホグワーツでの7年間は私たち全員を強く芯のある大人にしてくれた。友達をくれた。先生をくれた。愛する人も…。こんなステキな贈り物をしてくれたこの学校に感謝の意を込めます。最後に私が好きな歌から。



「人生は登山。でも…眺めは最高!!」



レディーが笑顔で帽子を上に放り投げた。生徒たちも全員で帽子を高く上げ、在校生からは拍手が送られた。涙を流す人、友達と抱き合う人、拍手をする人、さまざまな人がいるなかでレディーはドラコやオルガ、ランドールと目を合わせ上段から降りていった。



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