いくら涙を流しても、ランドールは帰ってこない。いくら名前を呼んでも、ランドールの声は聞こえない。それでも止めないんだ。
彼がまた帰ってくるような気がして…。
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ランドールが息を引き取って少し経った頃のことだ。ネビルが校舎を勢いよく走ってきた。レディーを見つけた途端、とても嬉しそうな表情で三人のいる方に向かってくる。
「レディー!!やったよ!ハリーが倒したんだ!!」
「え…まさか」
「ヴォルデモートを倒したんだよ!!」
三人で顔を合わせ、ランドールへと視線を向けた。嬉しい。嬉しいはずなのに、素直に喜べない。ランドールがいなきゃ、私たちが描いた夢が欠けてしまう。
ネビルはレディーたちの前に倒れていたランドールを見て、ごめんと言いながらその場から立ち去った。
「ランドール、ハリーがねヴォルデモートを倒したって」
ずっとこの日を夢見てきた。平和な世の中になってほしいと。
レディーがランドールの手を握ると、反対側の手をドラコが握った。今までの思い出が走馬灯のように頭に浮かんでくる。オルガは涙が止まらず、ヴォルデモートがいなくなったことにも、素直に喜べなかった。
初めからヴォルデモートなんていなれけばこんなことにはならなかったのに。魔法でランドールが生き返ればいいのに。
魔法は時に役に立たない。蘇りの石でも、人を生き返らせることは不可能だった。それほど命とは重く、それほどの代償なんだ。
「帰ってきて…」
そう強く願ったときだった。ランドールを繋ぐ手から光が溢れたのだ。それはドラコとランドールを繋ぐ手も同じで、三人は何が起こっているのかと眉を寄せた。
光っていたのはブレスレットだった。そう、ルーファスが六年の時にレディーに渡したブレスレットだ。
「…これ、もしかして…」
レディーはもし希望が残されているならと、ブレスレットをつけた手でもう一度ランドールの手を強く握り、「帰ってきて」と願った。ドラコもその様子を諭し、同じように手を握る。眩い光はますます強くなった。
「あ…傷が…」
光はランドールの体の傷を覆った。紫色に腫れた痣はなくなり、血で溢れた肌もふさがっていく。レディーとドラコは涙を頬に伝えさせながら、ひたすらに願い続けた。
帰ってきて
帰ってきて
帰ってきて
帰ってきて!!!!
ブレスレットはパキーン。と音を立ててそのまま割れ落ちてしまった。床でカランカランと弧を描いて倒れた。
もしかして助かるんじゃないかと希望を抱いたが、ランドールの体の傷は治っても、命までは戻してくれなかった。
「…でも怪我が治ってよかった」
「そうだな、あのままじゃランドールも辛いままだ」
二人は少しだけ微笑んだ。どうせなら安らかに眠ってほしい。
それにしても不思議なブレスレットだ。一人で願っても意味がなかったところを見ると、二人が共通の願いを持たなければ願いは叶わないらしい。ルーファスはなぜこれを私たちに渡したのだろう。
そう疑問に感じた時だった。
ランドールの右手がわずかに動いたのだ。信じられず目を見開く。 再び動く手に、あれだけ泣いたのにまた涙が溢れた。
まさか、まさかまさかこんな奇跡みたいなことが起きる?本当に?
手を握るとジワリと体温の暖かさを感じる。血が彼の中でまた流れてる。
「ねぇ…」
「嘘でしょ…」
「ランドールおまえ…」
動くまぶた。ゆっくり、ゆっくりと目が開かれていく。
「………だれ?」
目を覚ましたランドールが最初に見たものは、大好きな仲間のくしゃくしゃになった笑顔と泣き顔だった。
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ここはどこだろう。
あーそうか、俺死んじゃったんだ。
みんなと生きたかったなぁ。
やりたいことたくさんあったし、夢は叶えたかったし。でもレディーは助けられてよかった。オルガにも、ドラコにも最後に会えてよかった。自分のこと不憫だと思ってたけどそうでもないじゃん。幸せじゃん。
それにしても不思議なところだよなぁ。天国ってこんな感じなのか。
ール…くん
「はい???」
ランドールくん…
「誰ですかあなた」
レディーたちをよろしくお願いします
「って言われても俺死んでるんですよ。体もうボロボロ」
僕の代わりに、…を
「え?誰を?よろしくって、それにあんただれ」
…を、よろしく…ー
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「……だれ?」
「「ランドール!!!!!」」
「うわぁぁ!!!!」
レディーとオルガがランドールの胸元へ勢いよく飛び込んだ。「いてーよ」というランドールの元気そうな様子に、ドラコは信じられないような表情で見つめ、落ちたブレスレットを拾った。
「ランドール…」
「ドラコ…これは一体、だって俺はさっき」
「奇跡よ!ルーファスのくれたブレスレットのおかげだわ!!」
「きっと怪我がひどかったから心肺停止だったのね!生き返る魔法なんて聞いたことないもの!!」
ドラコはブレスレットとランドールを相互に見つめた。ランドールは険しい顔をしながらドラコへと視線を向ける。
「…まさか、な」
「…ドラコ?」
ランドールが首をかしげるとドラコはふっと笑いながら「おかえり」と呟いた。そんなドラコにランドールは歯を出して笑い、胸元で泣き笑うレディーとオルガに一度ハグした後立ち上がり、ドラコへと思い切り抱きついた。
勢いのあまり二人は地面に倒れこみゲラゲラと声をあげて笑った。そんな二人の姿にレディーとオルガも微笑み、倒れこむ二人のそばまで歩んで行った。
今はさっきの怪我とか、冷たくなった肌なんて、思い返そうとも思わなかった。
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大広間へと向かうと、静かではあったがみんな落ち着いた表情をしていた。「あの時の君の攻撃は良かったよ」、なんてお互い褒めあっている姿を見て、本当に戦争が終結したのだと実感する。
「レディー!!」
誰かがレディーを呼んだ。振り返ると勢いよく抱きつかれ足がもたれる。
「レディーレディー!よかった生きてて!」
「アロマ…!」
妹のアロマだ。生きていた、というか戦いに参加してるとは思わなかった。まぁ冷静に考えればサリアの血は引いているのだ、魔力も高い方なのだろう。しかし長かった髪の毛が縛れない程に短くなっている。それに切り口もガタガタだ。
「あー!これ?死喰い人に切られちゃったの!」
「そうだったの。後でオルガに整えてもらうといいわ」
「…レディーなんだか性格が変わったね!!」
「え」
「前は私にもっとツンツンしてたもの!その方がいいよ!!」
そうだ。今思えばアロマには冷たくし過ぎていた。サリアの…お母様のお気に入りの子だと思っていた。自分と比べられたことが嫌で妹すら嫌いになった。
でももう違う。アロマはちゃんとした妹だ。顔は全然違うけど、性格も違うけど、これからはそれも受け止められる。
七年を通してたくさんの真実を知ってきた。それが私を大人にさせてくれた。
「ごめんねアロマ」
「…?なんで謝ってるの?」
「これまで酷い姉だったと思うけど、これからは違うから」
「やだなぁレディー、ずっと尊敬できるお姉ちゃんだったよ」
「え…」
「お母様がレディーを嫌ってたの知ってた。理由はわからないけど。それでもレディーはずっと前を向けていたじゃない。頭はいいし、綺麗で、何でもできるレディーが羨ましくて、憧れだった。今でも変わらないよ?」
アロマがニコッと笑った。そんなアロマに、ただありがとうと、何度も言うことしか出来なかった。アロマはこちらこそ、と言い涙を流すレディーを抱きしめて微笑んだ。
(私たちはずっと姉妹!)
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