「おいエジワール、そこにあるペン取れ」
「…はぁ?」
冒頭から喧嘩腰で申し訳ないが私はマルフォイが苦手だ。別にわざと苦手になったわけではない。そもそもわざと人を苦手になるなんて奴はいないだろう。
じゃあなぜマルフォイが苦手かって?それはこのわけのわからない悪絡みが原因なのだ。
私たちは今大広間にいる。所謂自主学習の時間で、スネイプが机間巡視をしている状況だ。
私はオルガの隣に座っていて、目の前にはダフネ、斜め前にはミリセントがいる。ちなみにマルフォイの席はダフネの隣の隣の隣くらいで、ようは斜め前を見れば見えるくらいの位置にいる感じだ。
そんな別に近くにいるわけでもないドラコ・マルフォイは、なぜ、丁度間にあるであろうペンを取れなどと私に要求するかが理解できない。
早い話、ペンの目の前にいるクラッブに取るように言えばいいじゃないか。
「クラッブそこの我儘な男のためにペン取ってやって」
「だめだ」
クラッブはゆっくりと首を横に振って目の前のお菓子を食べている。ちょっとちょっと、今は自習中よ。なんて思いながらも、クラッブの謎の否定に眉を釣り上げた。
「なんでよ」
「エジワールが取らなきゃ意味がないからだ」
「……」
オルガはレディーを見つめた後スッと席を立った。レディーがキレるのを察したのだ。勉強道具を抱きとめ寮席の一番端へと移動する。
オルガが座り一呼吸置いた瞬間、大広間を包み込む怒号が響いた。
「意味なんかあるわけないでしょ!!!」
スネイプが鬼の形相で歩んでくる。他の寮の生徒は迷惑そうにレディーたちを見つめていた。まして一年生が叫んだのだそれは注目の的になるに決まっている。
あーよかった早いところ逃げてて。なんて思いながら、オルガは勉強の続きを始めた。
「おいエジワールうるさいぞ!」
「…うるさい?あんたのせいよマルフォイ!だいたいなに?ペンを取れですって?自分で取りなさいよ!!こんなに近くにあるんだから!!」
「ちょっとは落ち着いたらどうなんだ!!それにお前に言ったんだからお前が取ればいいだろ!クラッブに命令するな!命令していいのは僕だけだ!!」
そんなことはない。と言いたげにクラッブは首を横に振った。レディーはスネイプが近くで腕を組んで見つめていることなど気づきもせずにドラコへと詰め寄る。
「じゃあ私があのペンを取ったらなにが起きるわけ?」
「取ってからのお楽しみだ」
「へぇー!じゃあ俺がもーらい」
余裕げに言うドラコをよそに、クラッブの目の前にあったペンをいきなり現れたランドールが奪い取った。ドラコは立ち上がり「ランドール!!」と目を見開かせた。そしてペンを奪い取ろうと思ったのだが、ランドールはテーブルに向かって字を書き始めたのだ。
「うおっ…なんだこのペン…」
「…ちっ」
「なんで…」
なんで私の名前なのよ!!!!
レディーはランドールへと詰め寄った。ランドールがテーブルに「レディー・エジワール」と書いてしまったのだ。「しらねーよ」と言いながらランドールはペンを見つめた。
そして何かを察した彼はニヤニヤと口に笑みを浮かべ、ドラコへとペンを返した。
「なーるほどね。そりゃクラッブにとって欲しくないわけだ」
「エジワールに言ったら殺す」
「言わねーけどさ。お前回りくどいよなー。まぁレディーがペンを握ってたらきっと書かれる名前は俺だけど」
あはは〜と言いながらランドールはスネイプへと課題を出しに言ってしまった。スネイプは受け取った課題で頭をバシッと叩き、ランドールは「俺は無実だ」と言いながら大広間から出て行った。
残されたレディーは唖然としていた。
なにが起きたというんだ。ランドールがドラコのペンで私の名前を書いて、でもそのペンを私が使うとランドールの名前を書く?意味がわからない。
キョトンとするレディーを見て呆れたオルガは、ドラコが手に持っていたペンを奪い取りパンジーへと渡した。
「何よオルガ」
「いいから」
少しするとペンを持ったパンジーの手がスルスルと字を書き始めた。書かれた文字をミリセントとダフネが読み上げる。
「ドラコ・マルフォイ…?」
「なによこのペン!勝手に動いた!!」
ドラコがオルガを睨みつけた。オルガは気にもせずにそのペンをパンジーから取り、レディーへと見せる。レディーは未だ理解が出来ていないようで眉間にシワが寄っている。
「レディーまだわからないのね。どうなるかわからないけど、ホラ」
差し出されたペンをレディーは不思議そうに握った。ドラコは立ち上がりレディーの様子を固唾を飲んで見ている。
そしてレディーは課題の羊皮紙に字を書き始めた。そのペンが何なのかを察した周囲の生徒はスネイプの授業ということも忘れ、紙を見る。
「…なんだよ」
「レディーらしー」
「期待した私が馬鹿だった」
「俺はランドールかマルフォイだと思ったんだけどなぁ」
字を見た瞬間バラバラと退散していく。レディーはまだ何なのかわからずに眉間にしわを寄せ、ドラコへとそのペンを突き返した。
「なんなのよこれ!」
「なんでもないね!僕の課題の邪魔をしないでくれ!!」
いきなり怒り出し課題をやり始めたドラコにレディーはもう訳がわからなかった。いきなりペンを取れと言ったくせにこっちが怒りたいくらいだ。もう怒ってるけど。
なによ!と言いながらレディーも課題をやり始めた。
レディーがペンで名前を書いた紙が床へヒラリと落ちる。オルガはその紙を拾いふふっと微笑んだ。
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1人課題を終え談話室で寝転んでいたランドールは、ドラコにも目の前で書かせれば良かった。と少し後悔をしながら目を閉じた。
「しかし『好きな人の名前を書いてしまうペン』ねー。回りくどいというか、ドラコらしい」
ふぁーとあくびをするとランドールは寝始めてしまった。
そう、ドラコが持っていた、握った人が好きな人の名前を書いてしまうという魔法のペン。バレンタインの時期に流行るらしい代物だ。別に今はバレンタインでも何でもないのだが、気になる人の好きな人は、まぁ確かに気になる。レディーは一体誰の名前を書いたんだろうと、ランドールは夢の中でふと考えていた。
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「私の名前を書いてくれるなんて可愛い子よねレディーって」
「あれなんなのオルガ?」
書いた文字はオルガ・スターシップ
私たちずーっと親友よ
・ まだ無自覚な恋心