「好きです!!」
なかなかいい感じに声が響いた。この日レディーに告白したのはレイブンクローの男子生徒。大広間の出入り口で、わざわざレディーが出てくるのを待ち構えていたらしい。健気なもんだとオルガは笑ってため息を吐いた。
それにしても他の寮の生徒まで魅了するとは流石レディーといったところだろうか。たまたま合同授業があって、そこでペアを組んだ五分の間で彼を虜にしてしまったらしい。本人に自覚などないが、その可愛らしい顔で恐らく「よろしくね」とでも言ったのだろう。
それだけでイチコロなのだ。
さてこの少年の告白だが、声がデカすぎて案の定見物客の山になった。周りは囲われ円がつくられている。やってられるかと思いながらも、レディーがなんと返事をするか気になって私も野次馬の一人として円の端から見守ることにした。
「私の何が好きなの?」
「え?あぁ!全てです!」
レディーは眉を寄せた。この少年には悪いが、いい結果ではない。レディーは完全に呆れてる。
レディーに告白する男はみんなこう言うのだ。『全て好き』だと。それにたかが五分だけの関わりで何が全てなんだと言いたげだ。
「私の全てを知ってるのね」
「いや、えっと。その、全部知ってわけじゃないんだけどきっと好きになれる気がするから、好きです!!」
わけがわからない。それにレディーの顔を見てみろ。死んだマンドラゴラより酷い。しかし少年はめげなかった。前進してレディーの手を掴んだのだ。周りの見物客からはヒューと口笛が吹かれた。
「貴女を思うと…夜しか眠れないんです!」
「最高に健康的」
茶番だ。これはきっとみんなを巻き込んだ茶番。レディーもわざわざ相手にしなければいいのに。でも面白いから見るけど。
アハハと、笑いが巻き起こったのもつかの間。その日、その場所に鬼が通った。
誰だかなんてわかるでしょ?ドラコ・マルフォイよ。今も昔も変わらず我が物顔でホグワーツを歩き、目の前にいる人間は蹴飛ばしてでも道を作る所謂暴君だ。そんなマルフォイが集まる人だかりに目をつけ人をかき分けて入ってきた。
「おい!邪魔だぞ!」
バチッ。レディーとマルフォイの視線がバッチリ合ってしまった。戦争の始まりだ。マルフォイはなぜかすっっっごく機嫌が悪くて、告白していたレイブンクローの男子生徒を突き飛ばした。
「おやおや。誰かと思ったらモテモテのエジワールさんじゃないか」
「…出た」
「今年に入って何人目の告白だ?」
レイブンクローの男子生徒も黙ってはいなかった。みな彼のことをのちのち馬鹿だと言ったが、鬼の形相をしたマルフォイに遠慮なく立ち向かっていったのだ。
「おい!告白してるんだぞ!邪魔するなよ!」
「おっとそれは失礼。しかし君も珍しいのに惚れたものだね」
「レディーは完璧な女の子だ!珍しいものか!」
「完璧?ハッ!どこが?」
この時のマルフォイのセリフは今思えば拍手喝采ものだったと思う。周りの生徒達が口を開けるほど、マルフォイの話す速さは異常だった。
「分かっていないようだから教えてやるが…」
エジワールはがめついぞ。目の前の料理は絶対に渡そうとしないし、特にケーキなんかは譲る気ゼロだ。でも自分の嫌いな食べ物が出た時は率先して渡してくる。何か知ってるか?グリーンピースだ。それに服は殆どマグルのものだし、嫌いな教科で点数稼ぐために先生の部屋まで行って媚を売ろうとする。
僕の悪口を言うスピードなんか並じゃない上レパートリーも多いから更にむかつく。多くの男子生徒がエジワールを綺麗だと言うがエジワールの欠伸をした顔を見たことがあるか?まるでカバだぞ。手を入れたら間違いなく噛み千切れられるからな。まぁ確かに顔は整ってるし、悪くはない。それに純血だからもしも結婚したとしても家柄も守られる。頭もいいし容量もいい。だがお前はこれ程までの話を聞いてエジワールと付き合いたいと思うか?僕は…
「まったく思わないね!!!」
嘘言え。その場にいた全員が心の中で揃えて言ったセリフだ。レイブンクローの男子生徒は呆れて物も言えないようで、肩を落として眉を寄せている。
言った本人は随分満足そうに頷いていて、何だかとても滑稽だ。
だがレディーだけは反応が違った。言われ放題で怒ってはいるようだが、なんだか頬が赤い。
何となく察した。レディーは他の人にこんなこと言われたことがないのだ。散々「綺麗だ」「好きだ」「完璧な女の子だ」「付き合ってくれ」と言われてきたレディーにとって、自分のことを違った視点で見てくれる人はマルフォイだけなのだろう。
結局レイブンクローの男子生徒の告白はマルフォイのせいで玉砕に終わった。
この時から本当のレディーを見ていたのはマルフォイだけだったのかもしれない。だからレディーもマルフォイには対等で、話すときなんだか嬉しそうだったのかも。
ただ年齢のせいで喧嘩っぽく見えていたけど、嫌よ嫌よも好きのうち。なんて言うし。
完璧だと思われていた女の子が、実はそうでも無いのを見抜いたマルフォイがレディーの運命の相手になることなんて、もう必然だったのね。
(どんな君でも好きだなんて、知りもしないでよく言えたもの)
・ 彼女はわりと完璧じゃない