マルフォイが寮の扉を開けると生徒たちがマルフォイを見つめた。レディーの元へ歩もうとするとマルフォイに殴られ顔を紫色にしたランドールが彼女の前に立っている。
「いい顔だなランドール」
「一生ものの勲章さ」
「そこを退け」
「退くよ。ただ聞いてほしいんだ」
「聞く気はない」
「じゃあこれは独り言だ」
無視しようとランドールの横を通る。レディーはソファーにもたれかかり静かに泣いていた。
「ナイト・ランドールは1人の女性を愛していました」
マルフォイはレディーの前に行き膝をつき、眉を寄せるレディーの手を掴んだ。ランドールの“独り言”は続く。
「その名もレディー・エジワール。しかし彼女には心に決めた人がいたのです」
オルガは談話室にいた他の生徒に声をかけ、謝りながら大広間に行っててと伝え、一緒に寮の外へ出て行く。
ランドールは自分の気持ちを独り言にしながら語っていた。今までの気持ちを、傲慢な想いや嫉妬、彼女を好きになった経緯。全てを言葉にした。
マルフォイは聞く気など最初はなかったが、レディーを見つめながら耳を傾けた。
「ランドールは薬を盛りました。でも彼女は本心から彼を愛そうとはしません。だから彼は、彼女の想い人にこう言いました」
ふと、ランドールに視線を移す。泣いていたのだ。そして彼は独り言の終わりにこう言った。
「彼女を幸せにしてやってくれ、ドラコと」
ランドールはそう言って微笑んだ。マルフォイは彼を見ずに「ずいぶんと長い独り言だな」と言いレディーを立ち上がらせた。
「そのランドールと言う男に言いたいことがある」
「…なんだ?」
「幸せにするのは、こいつの意思を聞いてからだ。とな」
ランドールは再び微笑んだ。負けたと思った。彼はやっぱりレディーの最善を考える男だったのだ。
寮の扉がゆっくりと開く。オルガだった。
「マルフォイ、さっきレディーの妹のアロマがいて、事情を話したら一緒にいたハーマイオニーが惚れ薬の解毒剤を作ってくれるって」
「そうか。どれくらいかかるんだ?」
「一時間って。その間レディーは私が見るわ、おいでレディー」
オルガがレディーを手招きする。レディーがそちらに歩み寄ろうとすると、マルフォイはその手を掴んだ。
「いい。エジワールは僕が見る」
「な、何言ってんのよ!!男の部屋にレディーを連れて行けるわけないでしょう!!」
「安心しろ、僕の部屋は一人部屋だ」
「尚更嫌よ!」
否定するオルガを無視し、レディーの手を掴んで部屋へと足を運ばせる。レディーはここで初めてマルフォイに否定した。
愛の妙薬はまだ効いているのだ。ランドールの元へ戻ろうとするレディーは、さっきまでの静けさが嘘のようにそれはもうマルフォイのことを罵倒した。
「何すんのよこの馬鹿!アホ!ハゲ!変態!!」
「お前、戻ったら覚悟しとけよ…」
暴言を吐きまくるレディーに若干怒りつつも、マルフォイは引きずりながら部屋へと連れていった。
‐‐‐‐‐‐
「ランドールってカッコイイわよね」
「黙れ」
もういつのまにか夜になっている空を見上げながら、レディーはずっとランドールの話をし続けていた。
マルフォイは大概イラつき出し頬杖をして足を組んだ。
「大好きなの、しょうがないでしょ」
「…」
「いつになったらランドールのところへ返してくれるの?」
「一時間したら返してやるよ、むしろお前から返品するだろうがな」
鼻で笑うマルフォイにふーんと言いながら、頬杖をついてまた夜空を見た。
30分が経った、マルフォイは足をくんで本を読んでいる間、レディーは目を逸らさずに星を見続けた。
レディーの中では星が異様に懐かしく思えた。目の前にいるマルフォイと星がやたらとリンクする。なぜマルフォイからは優しい想いが込み上げてくるのだろうと、ゆっくりと瞼を下ろした。
そしてまた15分が経つとレディーはいきなり口を開いた。
「ランドールはねとってもキスが上手なのよ」
にこやかに言うその言葉は、ついにマルフォイのカンに障り、レディーを持ち上げベッドの上に乱暴に押し倒した。
「何すんのよ!!」
両腕を掴まれて逃げ場を無くしたレディーは、マルフォイに睨まれ言葉を無くしてしまった。
「…してやろうかキス」
「……え」
30…25……15……10と近づき、残り1cmとなった瞬間、大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
「薬が出来たってよ!!」
いきなり入ってきたノットに二人は言葉を無くした。
ノットは本日二度目の死を覚悟したのだ。
目の前にはベッドの上でレディーがマルフォイに押し付けられていて、一瞬頭の中が白くなっていた。
「俺は何も見ていません」
ノットが警察に拳銃を突きつけられた時のように両腕を上げて降伏した。マルフォイはドアへと近づいてノットの手から薬を強奪し、彼を部屋の外へと追い出した
部屋の外に出されたノットは手を合わせて神に祈ったのだ。
「命をありがとう神様」
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薬の入ったコップをレディーに渡す。
いきなりコップを渡されたレディーは怪しみながら眉を寄せた。苦い顔をしてマルフォイに尋ねる。
「何よこれ」
「エジワールがエジワールでいるための薬だ」
怪しみながらもレディーは全て飲みほした。マルフォイはジッとレディーを見つめている。
どうか戻ってほしい。自分の知るエジワールへと。
「あれ私、なんでここにいるの?というかここどこ?」
「…エジワール」
「あれ?マルフォイじゃない、ここマルフォイの部屋?どういうことなの?」
レディーはそこで思考が止まった。マルフォイがレディーを抱きしめていたからだ。何がなんだかわからないこの状況に首を傾げる。
薄暗い部屋に残され、抱き合う二人を夜空に出る満月は照らしていた。
しばらく沈黙が続くなかそれを破ったのはレディーだった。
「マルフォイ、放してよ」
「僕に命令するな」
「だって…」
抱く力はますます強くなっていく。高鳴る胸は、抱きしめているマルフォイに聞こえてしまうのではないかと不安になる。
「お前がランドールとキスをしていたのを見て、気が気じゃなかった」
「はぁ!?私ランドールとキスしたの!?いつ!!?」
無理矢理マルフォイを引き離して叫んだ。頗る驚く様子は、いつものレディーだった。
マルフォイは安心したようにレディーに話した。
「エジワールはランドールに惚れ薬を盛られたんだ、その時さ」
「ありえないありえないありえないありえないありえない!!!私のファーストキスが、ランドールなんかに、いつかのために取っておいたのに」
「エジワール」
「何よ」
マルフォイは頭を抱えるレディーの頬に手を当てた。そして真剣な表情で言ったのだ。
「僕だったらどうだった?」
いきなり真剣に聞かれ、レディーの心臓はドキンと音を立てて跳ねた。
「キスした相手が僕だったら、嫌だったか?」
「あ…、わ、私」
「ちゃんと答えろエジワール」
挙動不審な動きになるレディーの体を抱きしめて強く言った。
レディーは頬を赤く染めて、恥ずかしさでマルフォイから顔を逸らした。
「い、嫌じゃない…」
お互いの顔を見合わせた。
マルフォイからでも、レディーからでもなかった。同じタイミングで瞳を閉じ、月しか照らさない暗い部屋でお互いの口を合わせた。
ゆっくり唇を離すと真っ赤に頬を染めるレディーの姿があった。
ベッドの上に座る二人の他には誰もいない。
マルフォイはゆっくりと息を吸いレディーの手を包んで言った。
「レディー、僕はお前のことが好きだ」
返事が出来ないほどにのぼせるレディーはコクリと首を傾げる。
「私もあなたが大好きよ、ドラコ」
マルフォイは優しく微笑み、レディーを再び強く抱きしめて言った。
「一生愛してやる」
「ドラコのくせに生意気ね」
抱きしめる体に応えるように抱きしめ返す。
「お前だって生意気だ」
「だって、私の方がきっと愛してるもの」
レディーが微笑むとマルフォイはレディーにキスを落とした。
さっきよりも長い愛に溢れたキスだった。
言い合いをしてきた素直になれないこの口は、今確かに愛を誓いあったのだ。
(ねぇアルワ、私特別の意味がわかったのよ。あの時あなたが言いかけた言葉が)
何があってもその人を考えて、
護りたくなって、
誰よりも彼を
愛したいと思うの
Thirteen story END
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ダンスパーティーの夜キミがいない。
僕は一人憂鬱な気持ちでいるんだ。
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【The dance of the bride】
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