30 days


「あ、これはどうですか?」

 錦さんが差し出してきたのは白地に青い線が描かれたマグカップ。私の好みにぴったり合っていて、探してくれたんだなあとすごくうれしい。

「かわいいです! これ、二つセットですか?」
「対になっていましたよ」

 背中に隠していたらしいもう一つ。白地に黄色の線が描かれている。

「いいですね!」
「でしょう。お好きだと思いました」

 にこ、と微笑まれて思わず俯いた。この人は本当に優しい顔をするから、時々どうしたらいいのかわからなくなってしまう。

「沙紀さん?」
「なんでもないです! これかわいいですね、私これがいいな」
「ほかも見なくていいんですか?」
「錦さんが選んでくださったんですもん、これがいいです!」

 マグカップを二つ持つ。これで一緒に同じ朝を迎えられたらうれしい。朝食はトーストと卵とサラダ。それぞれのマグカップを持って笑い合えたら、幸せだろうなあ。

「沙紀さん、」
「はいっ?」

 妄想していたので焦って声が裏返ってしまった。どうしたのだろう、と見上げると、錦さんはものすごく真剣な顔をしていた。

「私と、一緒に暮らしませんか」
「え?」
「違いますね、ええと、つまり」
「はい!」

 言ってから頬をつねる。これも妄想の続きだったら救えないもの。でも無事に痛かった。

「待って沙紀さん、つまり私が言いたかったのは」
「結婚してください!」
「だめです、それは私が言いたいんです!」

 つられて錦さんも大声になって、気づけばたくさんの拍手に囲まれていて。二人とも固まっていたけど、顔を見合わせて笑い出してしまった。


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