30 days
実は。僕ら、まだキスをしたことがない。別に急いではいないけど、手をつないだ数も少ないことを考えると、彼女はあまり好きではないのかもと思ったりする。僕からアプローチして、告白したわけだし。
「志井くん?」
「あ、すみません、ちょっと考え事してました」
「ちょっと疲れてる? 部活忙しいって言ってたよね」
心配げな彼女に、大丈夫ですと返す。湿気が高いと彼女の真っ黒な髪の先がゆるく巻かれる。くせ毛なんだそうだ。染めてしかもパーマをあてている僕に、苦労も知らないでと膨れたこともある。
「今日、早めに帰ろっか」
「いえ、本当に大丈夫です。あ、もしかして空さん用事ありますか」
「ううん」
ゆるく首を振る。彼女はいつも優しいし、僕が何を言っても笑っている。ふわふわと。
「志井くん、いつも気を遣ってくれるね」
「空さんが好きですから」
「え、と」
彼女の顔が曇る。笑みを消すほどのことだとしたら、やはり僕の好意は迷惑なんだろうか。
「空さん、」
「あのね!」
遮られて驚く。彼女はいつも、僕の話をにこにこと聞いてくれていたから。
「わたし、も、好き」
まっすぐ僕を見て。彼女の言葉に思考が鈍る。
「ごめんね。ずっとちゃんと言おうと思ってたんだけど」
恥ずかしかったのだろう、頬が赤い。こんな彼女を見るのは本当に珍しくて。
「空さん、嫌やったら突き飛ばして」
本当は、きちんといい雰囲気の中、格好よくしたかったんだ。でもそんなのドラマや漫画でしか無理。なのに空さんは目を瞑ってくれて。
年上の優しい恋人の唇は、僕をしっとりと受け入れてくれた。