30 days
生憎の空模様だけど、わたしはバスに乗り込んだ。明日の一限に提出するレポートができていないことに気づき、大学の図書館へ向かうことにしたのだ。いつもより混んでいる車内で無事に椅子を見つけ、携帯を探そうとバッグを覗き込んだとき。
「音宮さん!」
苗字を呼ばれて見上げる。ふわふわの茶色い髪と赤縁メガネが特徴的な少年が立っていた。
「志井くん」
確か、高校生。年下の彼には、先日雨の日のバス停で出会った。雨宿りをしていたわたしに、缶のミルクティーを奢ってくれたのだ。特にその後出会うことはなかったが、同じバス停を使っていることはわかっていたから、存在に驚きはない。……が、見かけたからといってわざわざ声をかけてくれるほどの関係だったことには驚いた。
「学校ですか?」
「そう。志井くんは?」
聞けば、うーん、と首を傾げる。
「特になんてことないんですけどね。家にいても退屈やなあって」
「雨なんだから家にいたらいいのに」
「休みの日に家におるって損した気分になりません?」
「ならない。わたしインドア派だし」
志井くんはへえ、と笑った。
「今日だって図書館行くだけだし」
「それ、僕も一緒に行ってええですか?」
「え」
いいけど、別に面白くないと思うよ。
そう言ったのに、志井くんはとても楽しそうに笑う。
「音宮さんと話しとるだけで楽しいですって」
「あの、図書館ではおしゃべり禁止だからね」
「……んー、そうなんですけどね」
まあでも一緒に来るなら。降りる停留所を教えると、初めて降りるわ、とまた笑った。