30 days


「手、つなぎませんか!」
「なんで」

 つい、とこちらを見下げるその瞳は冷ややか。だけど、温度の低そうな真白い肌に合っていてとてもきれい。空気を含む黒い髪。通った鼻筋。黒々と大きな目。

「結依さんからの愛情を感じたいなって!」
「あっそ」

 とてもつれない。とてもつれないのだ、この男は。
 これは本当に付き合っているのだろうか。幻想だったりする? いやちゃんと付き合っているはず!
 つれない返事を投げたきりポケットから出る気配のない左手。じぃ、と見ながら口を開く。

「おーい、聞いてる?」
「聞いてる」

 上から降ってくる声に見上げると、なんとびっくり、私を見ていた。こんなこともあるのね!

「どうしたの」
「こっちの台詞だけど」
「どういう意味?」
「そんなことしなくても感じるでしょ」
「なにを」
「愛情」

 と、きれいすぎる顔が降りてくる。え、え、なに!

「……わからないならもう一回する? 新菜」
「もういい! 降参! わかった!」

 行きかう人たちの視線が痛いです!
 絶対私の心の中もわかっているくせに、きれいな顔を意地悪そうに歪めて笑った。

「それはよかった」

 意地悪そうな笑顔を浮かべたまま。何気なくとられた右手にはもう黙るしかなかった。この私が!


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