30 days


「別に悪い意味で言ってんじゃないけどさ、なんであいつなの?」

 新菜と共通の友人数人で居酒屋へ来ている。新菜とは別の島に分かれたが、高い声が聞こえてくるので彼女も楽しんでいるのだろう。
 そして今しがたの質問。彼も気の知れた友人なので、今更ここに悪意があるとは思わない。思わないが。

「さあ、どこかな。一時の気の迷いとか?」

 答える義理もない。笑ってビールを傾ける。

「一時の気の迷いにしちゃ長いだろ」
「まあそうかもな」
「あいつに言ってもいいの?」
「どーぞ」

 酒が入った奴というのは本当にやるから驚く。おもむろに立ち上がり、新菜に向けて叫ぶ。

「気の迷いだそうだぞー」

 それを受け、一瞬驚いた顔をした新菜だったが、すぐにへにゃりと表情を崩した。

「ずっと迷っててもらいたいな!」

 ひゅう、と調子に乗った口笛が聞こえたので黙殺する。まったく。気の迷いなわけがないだろう。

「すげえ惚れられてんのな、お前」

 叫んだ奴がすとんと座る。

「まあね」
「で、お前はどこが好きなの」

 そろそろ鬱陶しくなってきたが、新菜にだけ言わせるというのも酷というものだ。

「一緒にいると飽きないところ。それからめちゃくちゃかわいいところ。あと、さっきの返し。最高だったよな」
「……なに、お前そんなキャラだっけ? ていうかそんなかわいいっけ? あいつ」
「かわいいとこは俺だけ知ってりゃいいからね」
「なんだ、ベタ惚れなんじゃん」

 呆れたような彼には笑ってやる。

「ま、早く彼女つくれば?」
「うるせえよ!」

 まあ、新菜よりかわいい彼女なんているわけないけどね。


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