短文 | ナノ
 


 がり、と肌に食い込んでくる硬質な感触が身を固まらせる。体の芯から来る震えは防衛本能なのだろうか。

「い、ぁ、いた、たけやっ」

 じわり、滲んでくる涙が視界を歪ませる。仰け反らせた白い喉笛に歯を立てる男の姿は獣のようで他に例え方がなかった。捕えた草食動物にとどめを刺すべく、今まさに喉元を食い千切ろうとする猛獣。
 だが竹谷はその命を奪うほど深く噛みついたりはせず、戯れのように犬歯を喰い込ませ滲んだ血を啜ったりなどしている。どちらかといえば捕えた獲物を嬲って遊ぶ知性ある残虐な生物特有の行為だ。元より非力ななまえは彼の前で更に力無い存在と化し、蹂躙され、竹谷の気が済むまで待つ他為す術はない。

「やだ、ぁう、……ッ!」
「ちぇ、何で声我慢するんだよ。俺、なまえの泣き喚くところ見てみたいんだけど……もっと痛くしたら鳴いてくれるのか?」

 刻みつけた歯形を舌先でねっとりと舐め、吸い上げ、痛がって声を引き攣らせるなまえの反応を彼はからりと笑いながら楽しんでいる。振りではなく本気で竹谷に怯えているくせに突き放したりはせず、縋るようにぎゅうと強く服を握りしめてくる小さな手の感触が心地良かった。
 彼女はどう足掻いても自分から離れられないのだと、確認できたようで。何となく気分が良くて、竹谷は唇を綻ばせた。

 さて、次はどこへ牙を立ててやろうか。
 獰猛な獣の熱を双眸に孕ませて、竹谷は乳白色の肌へ唇を寄せていく。

 
がぶがぶ
121203.