初恋の味ははちみつの味。
では、人生最後の恋は?

「悪いな、聖。遅れて」

二杯目の紅茶がなくなるころ。
彼はようやくやってきた。
何やら落ちつきがない。
聖は目の前においてあったショートケーキにフォークを入れた。
出されたころにはよく冷えていたケーキも今はぬるくて、クリームの甘さがさらにくどいものに感じられた。

「…何」
「…いや、呼び出したの俺なのに…」

聖の不機嫌に気付いたか、男はあわてて背を伸ばした。
久しぶりに会うのだ。
聖はきっと別れ話なのだろうと考えていた。
彼が女連れで歩いていたのを聖は見ている。

「…別れるんでしょ?」
「え?」
「僕は男だもんね。反対、されてるだろうし」

聖はお皿に食べかけのケーキを残して立ち上がった。
彼は困惑した様子で聖を見上げている。

「…いいよ。僕はあなたの迷惑になりたくないから…さよなら、できるよ」

聖は笑った。
伝票を手に荷物を持って席を離れようとする。
その手を彼が掴んだ。

「ちゃんと話を聞いてくれ、聖」
「聞くことなんてないよ!」
「聖、何か誤解してるだろう」
「誤解ってなに。恋人が別にできたから別れてくれって言うんでしょ」
「それが誤解なんだよ」

彼はガサゴソとかばんの中から瓶を取り出して聖の手に乗せた。

「貧乏な俺じゃ、売れっ子モデルの君に指輪の一つも買ってやれない。だから…姉さんに頼んで聖の好きなシロップを作った」
「ねえ…さん」
「……聖…俺はもう君しか見えてないんだよ?」

動きの止まった聖の体を抱き寄せて強く抱きしめる。

「ねぇ、聖……そんな哀しげな笑みは君には似合わないんだよ……愛してる…愛してるよ、聖」

耳元でささやかれる言葉に聖の瞳から涙がこぼれた。
背中に腕をまわし、手に乗せられた瓶を握る。

「…っ、この僕を一人占めするんだから、こんなシロップひとつじゃ不満…」
「聖…」
「もっともっと、僕だけのためにシロップ作って」

聖の言葉に彼は笑みを深めた。
もちろん、とのうなずきの言葉とともに彼の唇は公衆の面前であるにもかかわらず、聖と重なる。
聖はゆっくり目を閉じて、ほんのり甘いその口づけを受け入れた。



初恋は蜂蜜の味、人生最後は彼お手製のシロップの味。
最後のシロップ
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