月が白い。
倖は空を見上げながら思った。
あの月はいくつの時代を経ても変わらない。
いつも天上で冷たい光を投げかける。
「…主様…」
倖は小さくつぶやいた。
倖の主と二人で見た月も同じだった。
白く淡く輝いていた。
「今どこにおられるのですか」
倖は寂しげな声を漏らした。
久しく主の顔を見ていない。
次こそは、と願い一体何度転生したのだろうか。
倖は白い息を吐きながら当てもなくさまよう。
まだ生まれ変わらぬ主をひたすらに想い続けた。
倖のことを覚えているとも限らないのに、それでも倖はひたすらに主を恋い慕う。
『倖、綺麗な月だねぇ。世の中も誰もが、こんな月をみたらきっと争いを止めるよ』
彼の主は酒をあおりながらそう呟いた。
倖は主の隣に座りながら同じように月を見上げた。
『人は醜い。だからこそ美しいものを見ると心を落ちつかせられる…ねぇ、倖。いつか二人で旅に出ようか』
主様、主様。
倖はそうつぶやいた。
倖は海が見たいのです。
空と同じ色をしていると聞きました。
『倖や、私がお役目ごめんになったらこの都を出て何処に行こう。あぁ……倖、海を見に行こう。何処までも広がる湖だと聞いた。素敵じゃないか。何処まで続いているのか、私と倖で確かめようか』
言葉は通じずとも二人の意識は共通だった。
雪は嬉しそうに目を細めた。
『倖…私の大切な倖……幸せになっておくれ…』
主様、倖はあなたがいなければ幸せなどわからないのです。
倖は月を見上げ切ない声を漏らした。
大切なあなたがいなければ、どうして幸せなど感じましょう。
小さな湖の前。
白く映りこむ月を見つめ倖は哀しげに鳴いた。
奥深い森の中、月が白く輝く夜には狐が死んだ片割れを慕って嘆くという。
静寂の夜には
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