かつて軍人だった俺は、部下を何人も死なせた。
敵も殺した。
町も壊した。
平民を殺した。
何の罪もない人々を苦しみの中に突き落とした。
そして、俺自身も死んだ。
なにひとつ、贖罪できず。

○県の山奥にある、地図から消えた村。
そこはかつて俺が生きていた村だった。

『こら、  !ちゃんと仕事をせんか!』
『  、今日のおやつは芋粥だけど、我慢してね』

戦時中、俺の村からは幾人もの男たちが出征していった。
そして、俺も。
軍学校を出た俺は、仕官して陸軍の一師団を任されるようになった。
その中で、あの男とであった。

『本日より、この隊に配属されます、   です!』

俺よりも、遥かに年下の少年。
そう、まだ少年だった。
この腐り切った世の中で、彼の瞳だけは輝きを喪わず未来を見据えていた。
だから興味があってそばに置くことにした。
その瞳の輝きが、いつまでもつのかと。
戦争が激しくなっていったのはそれからしばらく経ってのことだった。
陸軍である俺たちは、占領した島の一つに配属された。
幸運にも敵は俺たちの島に近づくことはなく、ただ負けゆく戦況を眺めていた。

『  隊長…』
「なんだ」
『……こ、こんなこと言われたら絶対敬遠されると思いますが…聞いてほしいんです』

日本の敗戦が色濃くなったある日、俺はあいつの想いを知った。
それと同時に己の気持ちも悟った。
戦争が終わり、無事に本国に帰りついたなら、その時は俺の村で暮らそうと告げた。
敗戦国の一師団の隊長である俺に、無事、ということはないだろうが。

『隊長、俺、いつか隊長とゆっくりしたいんです。隊長の村で、俺は隊長の隣で、隊長の笑顔を見ていたいんです』

あいつはそう語った。
俺もうなずいた。
いつか、そうなれたらいいな、と。
だが、運命は何よりも残酷だった。
俺たちが逗留していた島は終戦間近になって敵に見つかった。
守らなければ、投降していれば、俺たちはどうなっていたのか。
それでも俺は隊長として部下にも、あいつにも命じた。

「玉砕覚悟で行け。この島を守り抜くんだ!」

あいつをそばにおいた俺は部下たちが次々と死んで行くのを見ていた。
俺もやがては物言わぬ躯になる。

「…すまんな、約束は守れそうにない」
『いいえ…俺は、あなたのそばにいれるのが幸せですから』

あいつはそう言って笑うと俺の盾になった。
いくつもの弾をその身に受けたあいつは、死んでからも笑っていた。
俺は獣のような声をあげて敵に突進していった。
体に巻いたいくつもの爆弾は俺の体と敵を粉々に吹き飛ばす。

『隊長、いつの日か、また俺を好きになってくださいね。俺も、隊長を必ず見つけ出しますから』



「……」

蝉の声がする。
今年もあの日がやってきた。
俺と、あいつの命日。
地図から消えた村は廃墟と化し、今は唯、かつての名残がかすかにうかがえるだけだ。
俺は、あの魔術師に蘇らされたそのすぐ当日に、あいつの墓を村を一望できる高台に作った。
誰もその存在を知らない小さな墓に、俺は足を向ける。
ただ一つの約束をその胸に抱き、俺はかつてできなかった贖罪を行う。
いつ彼に会えるとも知れないが、俺はあいにく諦めることを知らない。
いずれ会えると信じ、俺は今年も眠るあいつに会いに行く。


贖罪
back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -