その国にはかつて主に誰よりも忠実な家来がいた。
だが、主は間者に唆され、家来を殺した。
それからその国は敵国に滅ぼされたという。

『人とはいつまでも争いを好むものだ』
「そうですね」

焼け野原になった土地を二人の人間が歩む。
どちらも銀色の髪を持ち、徒人ではない気配をまとっていた。
死臭が漂う土地には何も残っていない。
住んでいた人間はもはや国を捨てていたのだ。

『家来を信じていればこのようなことにはならなかったものを』
「銀様、これからどちらに?」
『忠実な僕を探しに向かうのだよ、倖』
「人は死んでから骨になると聞きます。肉体はすでにないのでは?」
『なに。そんなことは些細なことでしかない。都合のいいことに真新しい死体ならそこらへんに転がっているからな。それを使わせてもらう』

銀という名の男は手近にあった若い青年の体を腕に抱えると、口の中で小さく呪文を唱える。
傷つき、血だらけだった体は瞬間にキレイな体へと変わる。

「あの城だ」

今は天守閣も落ち、煙は燻る城を銀は指差した。
つられて倖も城を見上げる。

『行くぞ。早く探さねばならない。次も見つけたいからな』
「はい、銀さま」

二人は城内へと足を運ぶ。
城内には骸骨が並んでいる。
それらに目もくれず、銀は足を奥へとむける。

『ここだ』

大きな木の根元、銀はそこで足を止め、腕に抱えていた体をゆっくり下ろした。
倖は静かに銀の後ろに立つ。
銀は青年の体を中心として魔方陣を描いた。
青く輝く魔方陣を見つめ、銀は小さく禁断の術を唱えた。

『さぁ、黄泉の底から戻ってくるがいい。主が新しき名は暁』

銀の真っ赤な瞳が、金色になると同時に、地面から飛び出してきた光の珠が青年の体に吸い込まれていった。
倖は様子を見守っていた。

「ん…」

やがて青年が小さく身じろぎ、瞳を開ける。
真っ赤に瞳はやがて銀と倖を見た。

「ここ、は…」
『お前が仕えていた国だ』

青年は体を起こして周りを見回す。
記憶の中にある国とは大違いだった。

「この国は少し前に敵国によって滅ぼされました。城主は一族とともに自害」
「殿が…」
『お前は自由だ。だが、私ときてもらう』
「…お前は?」
『銀。世界を旅する魔術師だ。あちらは妖狐の倖。私にはお前が必要なのだよ』
「……あぁ、この国がなくなったのなら俺がここにいる意味はない」
『そうか。よかった』

銀は微笑むと手を差し出した。

『お前はこれからは暁という名で生きるのだ。あと二人…私が彼らを見つけ出し、子供を救うまで、ともにいるのだ』
「…はいはい」

かつて凛、という名で生きていた青年はこうして暁という名で再び生きることとなった。




「アキー!アイス食べにいこー!」
「ちょっと、響…さっきカキ氷食べたでしょ」
「おなか壊しますからだめですよ」
「いいんじゃないか?どうせ響の腹だ」
「やってみなきゃわからないでしょ」

そんなにぎやかな日々を送れるとは露知らず、彼は第二の生を歩むことになった。

僕が生まれ変わった日
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