どうしてこんなことになったんだろう。
ただあなたのために尽くしていただけなのに、俺はあなたに殺された。
いや、あなたじゃない。
あなたのそばにいる、その子供に俺は殺された。
あの日、最愛のあなたを奪われた俺には、死ぬ以外に残されていなかった。


「凛」

誰もいない殿の部屋。
俺はあなたに名を呼ばれ、壁際に姿を見せた。
殿に仕える隠密衆頭領、それが俺だった。

「よくぞ戻った。して、首尾は」
「上々…」
「よくやった。おぬしはまこと使えるやつだ。褒美をやろう。なにがいい」

褒美と聞いてまず先に浮かんだことに、俺は顔を赤らめた。

「ん?凛、どうした」
「…では……口吸いを…いただけますでしょうか」

どうせ笑い飛ばされるに決まっている。
俺はだめもとで告げてみた。
しばしの空白。

「ふふ、来い、凛」

名を再び呼ばれ、俺は主の手招くままそばに近寄った。

「そんなに離れていてはできんだろう」

腕を強くつかまれて唇が重なる。
殿の唇はとても熱かった。
俺を拾って隠密衆に入れることを許してくれた殿。
この人がいなければ今の俺はいなかった。
だから、命を賭して、俺はこの人の天下のために働く。

「新しい小姓?」

部下から報告があったのは殿から褒美をいただいた数日後。
殿のそばに得体のしれない男がいるという。
素性が知れず、敵国の間者ではないかと、部下は告げた。

「そうか…もう少し調べてくれ」

素性が知れないのは捨て子だからかもしれない。
俺はそう思いたかった。
だが、事実はそうではなかった。

「…そうか、やはり…」

子供の正体はやはり間者であった。
だが、殿は相当入れ込んでいる。
申し立てて、逆に俺がやられてしまいかもしれない。
俺は部下に決して俺に関わるなと告げてから殿の部屋に向かう。

「殿…私は新しい着物がほしいのでございます」
「おーお、買ってやるぞ」

殿の声と間者の声…
俺は静かに中へ足を踏み入れた。

「凛?」
「殿、私はどのようなお咎めも受ける所存にございます…どうか、これから起こること、決して目を離されますな」

懐から出した刀を小姓に向ける。
目を見開き俺をにらむ。
でも逃がしはしない。
俺は小姓が何か言う前にそののどをかき切っていた。
血を噴出し、絶命する小姓。

「凛!何をする!」
「このものは敵国の間者にございます。どうか、讒言に惑わされますな」
「……ッ、凛、主には死を命じる」

殿はすでに正気ではない。
俺はゆっくり微笑むと立ち上がり、庭に出た。
小姓の血の突いた刀を捨て、殿からいただいた刀を手にする。

「殿、どうか国を…」

殿はもう俺を見ようとはしない。
それでもよかった。
俺は静かに自分ののどをかききった。
だから、その後自分がどうなったのかはしらない。

僕が死んだ日
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