ダイヤの国。
そこは、女王クリスタ=スノーピジョンが治める国である。
ダイヤの城、帽子屋領、駅、墓守領の四つがある。
「どこにいようかな」
セレナは特定の領地にはおらず、適当に様々な場所を移動していた。
そろそろ腰を落ち着けたいところである。
今仮宿として駅に住まわせてもらっている。
もちろん代わりに労働力を支払っている。
「そろそろナイトメアもうるさいしなぁ…どこに行こう。ブラッドのところはほかの国と違ってまだ若いから騒がしいし、クリスタのところは冷え冷えとしてるし、エースもいる…そうなると墓守かなぁ」
実を言えば墓守には行ったことがない。
あそこには墓地と美術館とある。
あまり足が向かないのだ。
とはいえど、見てみないことには先に進まない。
セレナは駅での仕事がひと段落したのを見計らい、墓守領へと向かうことにした。
駅から森を抜けていく途中、銃声が聞こえた。
足が止まる。声も聞こえた。
このまま何事もなかったように進んでしまえばよいのだろうが気になってしまった。
セレナは銃声が聞こえたほうへ足を向ける。
ばったりとあってしまえば巻き込まれかねないというのもあり、携えている鞭を使って木から木へと飛び移っていく。
硝煙の匂いが漂ってくれば少し距離を置いて足を止めた。
「くそ、待ち伏せか!」
そんな声が聞こえてくれば領地争いか、と頭の片隅で考える。
人数差があるなかでのやりあいは好きではない。
フェアでなければ、と思ったりもするのである。
様子を窺えば明らかにスーツのようなものをまとったほうが人数が少ない。
相手のほうはかなり大勢である。
「弱いものいじめは好きじゃないんだなぁ」
セレナはつぶやけば木の上から飛び降りる。
双方が声を上げる前に足に携帯しているナイフが目の前の男ののどを切り裂いた。
男が倒れるよりも早くセレナは次の男を突き刺し、腕から銃を奪えば残りの男を一掃した。
弾切れとなった銃をぽいっと放り投げれば、さて助けた人物は、と振り向く。
「助かったよ、ありがとうな」
セレナの動きが止まる。
眼鏡をかけた、男。その顔には傷跡がある。
セレナにとって見たかった顔であり、見たくもなかった顔でもあった。
「ジェリコ=バミューダ…」
「俺を知って…って当たり前か。この方向は墓守領だしな」
セレナを見て彼は笑顔になる。
セレナは動きを止めてまじまじと見てしまった。
「ん?どうした?俺の顔に何かついてるか」
「いや…そうじゃ、なくて…」
セレナは言いよどむ。
何度か言葉を発しようとするものの言葉にならない。
ジェリコはセレナに近づくとその顔をのぞきこんだ。
「お前は?」
「…セレナ…」
「…なるほど。助けてくれたわけだし、墓守領に帰るところなんだ。せっかくだしお茶でもしていかないか?」
「ぇ、いいの?」
「もちろん」
ジェリコの言葉にセレナはがくがくとうなずいた。
ジェリコは墓守の男たちと領土交渉に行っていたようだ。
並んで歩きつつその顔を見上げれば記憶にある顔と相違ない。
ゆえに、セレナにとってはつらい。
「さっきは悪かったな。助けてもらえるとは思ってもなかった」
墓守領のジェリコの部屋。
お茶を出されながらセレナ首を振った。
静かな様子にジェリコは首をかしげるもやがて何を思ったのかセレナのそばに椅子を持ってきてその顔をのぞきこんだ。
「…"中心部"だよな?」
セレナの呼吸が一瞬止まる。
そうか、とジェリコはつぶやいてから少し考え込むかのように顎に手をやった。
いたたまれない。
「セレナ、どうだ?うちで働かないか。腕のたつものが一人ほしいと思っていたんだ」
「は?私を中心部と知ってそばに置くの…?」
「あぁ。どうだろう」
セレナは言いよどむ。
ジェリコを見ては目の前に置かれた茶器を見るのを繰り返し、何度かそれを行ってからようやくジェリコを見つめる。
「私が、いていいのなら」
「いいさ、もちろん。誘ったのは俺だから嫌になったらいつでも出て行っていいしな」
セレナは大きくうなずいた。
定住場所はセレナ自身予想もしていなかった場所である。
ジェリコがセレナに手を差し出してきた。
セレナはそれを握り返しながら笑う。
「あらためて…"はじめまして"ジェリコ。これからよろしくね?」
あらためて、はじめまして
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