「セレナ、朝よ」
「ん〜…あと…少し」
同僚の言葉にセレナは枕に顔をうずめる。
それでもばっと枕を奪われてしまえばハシバミ色の髪をかきあげながら起きるほかはない。
「ほーら、おきて。すぐにオーナーの」
彼女の声は最後まで続かなかった。
つんざくような音が響き渡る。
気持ちのいい朝だというのに、とセレナは耳を抑え窓を開ける。
目標は見つけた。
今日もご機嫌のようだ。
だが、そのご機嫌と頭が割れるほどのひどい音楽は関係ない。
「うっせぇですよ、朝から。オーナー」
パンッと銃声が一つこだました。
「セレナ、オレはお前の上司でこの遊園地のオーナーだぞ?なんでそのオーナーに問答無用で銃をぶっぱなす?」
「当たってないでしょ、オーナー?」
しかられながらもそっぽをむく。
事実、セレナが放った銃弾は気持ちのいいほどにゴーランドの髪一本を切り裂いて消えたのである。
起きがけの仕事にしてはよくやったとセレナはおもう。
ふてくされたような顔のセレナにゴーランドはため息をつきつつもこれが彼女である。
「はぁ…そろそろ舞踏会も近いってのに」
「あれ、そろそろ催し物の時期でしたっけ?」
遊園地の制服の裾をいじりながらゴーランドの言葉に耳を傾ける。
催し物―ハートの城での舞踏会である。
小躍りしそうな様子のセレナの頭に手を置いてゴーランドは動きを止める。
見上げる瞳はきらきらと輝いている。
こんな顔をされてしまっては役持ちではないのだから留守番、ともいえない。
「セレナ」
「なになに?」
「行きたいなら次は一緒にこいよ」
なにに?とは聞きなおさない。
ゴーランドがバイオリンに触れた。
先ほどとは違うきらめきが瞳に宿る。
「しょーがないですねぇ。もちろん!」
「よし、決まりだな。さてっと…遊園地が開くぞ。今日もいってこい」
「オーナーはバイオリン弾いちゃだめですよ〜?」
ゴーランドの怒号を聞きながらセレナは遊園地の門を開くべく入口へと向かっていく。
「さて、本日も遊園地が開きます。みなさまどうかお楽しみくださいませ!」
セレナの声とともに門が開いていく。
老いも若きもにぎやかな声を出しながら各々乗りたいアトラクションへと向かっていく。
その背中を見送りながら帽子をかぶり直しセレナは口元に笑みを浮かべた。
「さぁ、本日もいいお天気。楽しく時計の針を進めましょう…?」
針の重なり方
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