途中行方不明になった紅を、刺客と称し忍たまに捕まえさせる算段をつけた白。
ようやく出てきてくれたはいいが、なぜか行商の恰好をしているではないか。

「はぁぁぁぁ…」
「白、ため息をついていたら幸せが逃げるぞ」
「ほぼ紅のせいです」
「うむ…そうか」


わかっているのかいないのか、紅は適当に答えると苦無を持ったまま刺客五人へと向かっていく。
一人目を苦無で脅しながら足元の少年、先ほどご褒美は銭か、と言っていた彼を網ごとつかんでは後ろへと放り投げる。


「きり丸!」
「うわわっ」

後ろで見事受け止められたか歓声が聞こえる。
紅はそれを確認している暇はない。
正面からやってきた一人の鼻に苦無の持ち手を思いっきりぶつけ左右から襲ってくる二人をしゃがむことにより避けてから、上に振り上げた両足で顎を強く蹴る。
これで三人一気に戦闘不能にした。
態勢をたてなおし、ほこりをはたけば残るは二人。人質も二人。
でも彼らはしっかりと捕まっている。


「白、紅の玉。一番小さいやつがいい」
「はいはい」

白が懐から出した玉が紅の手に受け止められる。


「少年たち、息を吸うなよ」

紅の言葉に二人は息を思いっきり止めた。それを見て紅は玉を投げる。
破裂したそれからわずかに色づいた煙が出たかと思えば刺客はむせる。
そんな布では防げないのに、と紅は内心思いつつも煙の中へ飛び込み、二人をつかむ腕を叩き落として首根っこをつかんで煙から脱出する。
二人ともちゃんと息を止めていたようだ。
煙から離れれば、もう大丈夫と声をかける。


「ぷはー…」
「し、しんどかった…」
「悪いな。紅たちのせいで」
「紅」
「わかってる」

人質はいなくなった。
ならばもう、なにも遠慮しなくていいのだろう。
苦無を白に預け、紅はいまだむせる刺客に向き合う。
小さいとはいえ、あの煙の効果はあるようで足元がふらついているのがわかる。
紅は何も持たないまま二人にむかって駆け出していた。
防御の構えを取る前に紅の拳がまず一人目のみぞおちに入る。
えづいたその瞬間に隣の刺客へ紅の足蹴りが側頭部に入る。
ごきっという嫌な音とともに崩れ落ちた二人目をそのままに苦無をこちらに向けた一人目の刺客の腕を止め、再び腹部に膝を入れる。
それで最後だった。

「あっけないな…これしきの腕で紅たちを狙うなど笑止千万」
「まー、それもそうですね。とくに紅なんて素手で倒せますし」
「まぁな」

はっはっはと笑いながら紅は刺客五人を縛り上げる。
どうするんです、と白が問いかけてきた。


「…そうだな、学園に迷惑をかけてしまったし……あおー、青ー?」
「そんなに呼ばなくても聞こえます、長」
「よかった。案外近くにいたな。青、ひとまずこの五人を里に連れ帰れ。だれの手先かちゃんと調べて灸をすえないとな」
「えー、全員連れていくんですか」
「どうせ、ほかのやつらも途中にいるだろ」

名前を呼べば狐面をした忍びが一人、そばの木から降りてくる。
いやそうな顔をしているであろう彼に刺客を預けて紅は学園長を見た。


「騒がせてしまったな…ところで、まだ紅を捕まえるか?」

紅の強さを目の当たりにした忍たまたちは幾分か怖気づく。

「いや、俺たちはやるぞ。むしろそれまでの強さなら余計に燃える!」
「こんなに強い相手に出会えることはないしな」
「先輩たちがやるなら俺たちもやる!」
「三郎!で、でも本当にあの人強いよ…?できるの?」
「俺たちなら余裕だろ、雷蔵」

出てきたのは二学年。
紅の口元が弧を描く。


「おいで、紅を捕まえに。できるものならな」

それを最後に紅の姿が掻き消える。
あわせてその二学年も追いかけていった。
白は騒がしいその場を見てから口を開く。

「学園長、いいんですか」
「楽しいからいい」
「……はい」


紅ときっと気が合うな、と白は思うもそれは口に出さない。
爆発音が遠くで聞こえてくる。


はじまりの日

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