運動場に集まった生徒の姿をみながら白は果たして紅を捕まえられるかと思っていた。
各学年の個性や得意なことは聞いたがさすがに一流として長くやってきた紅を捕らえるのは至難の技だろう。

「この方を追いかけて刺客が一人この学園に侵入しておる。見事捕まえた学年にはわしから褒美をやろう。あぁ、一年生や二年生は無理をするでないぞ」

白を追いかけてきた刺客をとらえる。それが今回の学園長の思い付き。
紅を捕まえた学年で紅は半年を過ごすし、白は二番目に優秀と判断された学年で過ごす。
どのぐらいで捕まるだろうかと白は思案した。


紅は騒がしくなった学園内を逃げ回っていた。
焙烙火矢、石火矢、苦無、落とし穴に千輪、さまざまなものが紅を追う。
楽しくなっていたのははじめのほうだけ。忍たまのくせにしつこいな、と紅は思いながら教室の屋根を走り回る。
いったい白は何を言ったのだろうか。
ひどいいわれようをしたのかもしれない。ただの鬼ごっこにしてはなかなかに本気である。
おそらく最上級生であろう五人が特に。
しつこいどころか、「ぎんぎーん!」「いけいけどんどーん!」「勝負だー!」と叫んで追いかけてくるものだからさすがの紅もうんざりし始めた。


「……いや、しかし今紅はあれを持ってないしな」

建物の陰に身を潜めて一息つきながら紅はぼやく。
きゅう、と切なげに腹が鳴けば朝方の食事以来口にしたのは豆腐だけだな、と思い出す。

「あの豆腐うまかったな………豆腐を食べに来たわけじゃない」

食べ物につられて出て行ったらなけなしの誇りが折れてしまう気がするから出ていくことはしないのだが、いずれ体力がなくなって捕まってしまいそうだ。
ため息をこぼして紅は立ち上がるも、ふと目の前の繁みで何かが動けば再び身を隠す。
生徒か、と思うも生徒の気配ではない。
そして、忍術学園の関係者どころか、あれは、と紅は目を細める。
生徒に危害が加えられなければいいのだが、と思いつつも気配をなくしたまま木の上へと身を隠した。




「ねぇ、しんべヱ」
「なに、乱太郎」
「先輩たちが追いかけている刺客って強いのかな」
「でも、山田先生も土井先生も危ないとは言わないで見学してこいって言ったよね」

木に潜んでいるとき聞こえたそんな会話。
下を見れば青い忍者服をきた少年が三人歩いている。
下級生か。紅は少し様子をうかがった。

「どれだけ強いんだろうって思うんだけど、利吉さんよりも強いのかな」
「さぁなぁ…捕まえたときのご褒美のほうが俺は気になる。銭かなぁ」
「きりちゃんってば、結局それなんだから」


三人の会話に思わず声が漏れそうになるもそれを抑えて紅はいくつか推理する。
白は自分を捕まえたものに褒美を出すという。
先生方も参加してないということはこれが本当の刺客でないことを知っている。今日中に紅が捕まらなければ白は実力行使に出る可能性が高いということも思った。


「白の実力行使は怖いな…」

容赦などないからだ。
怒った時の側近の強さは紅は重々承知している。
適当に忍たまをあしらいつつ、適当に捕まっておくか、と紅が動こうとしたときだった。



「わぁぁぁぁっ」

三つの悲鳴があがった。
紅が下を見れば先ほど気配を感じたものがいた。
あれこそ、本当の刺客。学園ではなく、紅と白を追いかけてきたやつだ。
巻き込んでしまったか、と紅は頭を抱えた。
刺客は一人ではなく五人。捕まった忍たまは一人ずつ網にいれられて足元に転がっている。
助けなければ、と紅が考えたとき、頭上から「いけいけどんどーん!」と声がし、紅の頭をかすめて苦無が地面に突き刺さって行った。


「…いや、下手したら突き刺さってたのは紅の頭のほうだな」


冷静にそんなことを分析しながら葉の陰から様子を見る。
紅をしつこく追いかけてきた忍たまがそろっていた。

「ん?先ほどの刺客とはまた違うな」
「乱太郎たちを人質にとるとは、卑怯な」
「だが相手は五人、不足はない」
「やめておきなさい」


各々の武器を構えた彼らのもとに学園長と白がやってくる。
騒ぎを聞きつけてほかの忍たまもやってきた。
人数比からいえば刺客の方が不利、だが彼らの足元には忍たまが三人転がっている。


「学園長、申し訳ありません。こちらの事情に彼ら三人を巻き込んでしまったようです」
「追われていたのじゃな?」
「はい。里を出たあたりからついてきていたのは気づいていましたが、特に何もしてこなかったので……」

白は紅のいる木へと視線を向けた。
どうにかしろ、とその視線は伝えてくる。
これが終わったらもういろいろあきらめて先ほどの彼に豆腐をもらいにいこうと紅は決めた。
あれが美味しかったから食べたらきっと疲れも吹っ飛ぶだろう、と。


「まったく。紅の楽しみを邪魔してただではおかんからな」
「って、さっきの行商さん?!」
「ふふ、また会ったな。だが、喜びはあとで。白、紅の苦無」


刺客と向き合った状態で手を頭上にかざせば気持ちよく飛んでくる苦無。
それを受け取り紅は笑顔を浮かべた。


「さて、久しぶりに本気でやりおうかの」


はじまりの日

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -