「いいですか、紅。長老たちのお知り合いの方とはいえ半年お世話になる方です。決してご迷惑をかけな……紅ぃぃぃぃっ」


忍術学園へと向かう道すがら、滔々と紅に注意を述べていた白だったが振り向けばそこに紅はいない。
いつだ、いつからいない。
行く先はわかっているから迷うことはないだろう。
あのなんでも面白がる人だ。何かしでかさないか、というのだけが心配である。


「……あとでしっかりしめておこう…」

白はそう決意をして忍術学園の門をたたいた。




「そのまま入っただけでは面白くないものな。忍術学園の生徒がどれだけのものが確かめてやろう」

行商に変装した紅は花籠を片腕に抱いて忍術学園の門の前にいた。
この先必要な荷物は白が全部持っていたから、簡易な変装ではあるがばれることはないだろう。
紅はわくわくと弾む心を抑えきれない。一度深呼吸をしてから門をたたいた。

「はーい、どちらさまでー?」

門から顔を出した男の胸には「事務」と書かれていた。
紅は笑みを口元に浮かべてこんにちは、と告げる。

「行商をしているものです。薬草もございます。学園ということで何か不足品がないかとお声をかけました」
「あぁ、そうなんですねー。それでしたら、入門票にサインいただいてもよろしいですか?」
「はい」

紅は笑顔を浮かべたまま男が差し出してきたものに【紅桜】と記す。
変わったお名前ですね、と感想を述べた男は紅を内へと招き入れる。いいのか、こんな簡単で。

「出るときには出門票に同じく名前の記入お願いしますねー」
「わかりました」


男に手を振り、紅は学園内を歩きだした。
今は授業中なのだろうか。少し静まり返っている。
おそらく白はすでにここに到着しているだろうから、ばれないように探りまわらなければいけない。

「…ふふ、学校とはこんなものなのか」

火薬庫や武器庫、わずかに鍛練の声が聞こえる校庭や教室。
紅は気配を消しながら歩いていく。
道中罠や落とし穴だらけの場所を過ぎたが、そこはさすが忍者の学校といったところか。

「ふふ……」

紅の足取りは軽い。
気配を極限まで消しているから見つからないだろう。
歩いていればわずかに薬草の香りを感じそちらに向かう。
医務室なのだろうか、薬草庫なのだろうか、そっと扉を開けてみれば鳶色の髪がふわふわと揺れていた。

「こんにちは」
「ぇ、ぁ?!うわあぁっ」

かなり驚かれてしまった。
くすくすと笑う紅に、彼は声を止めると恥ずかしそうにしながらあなたは?と問いかけてくる。

「行商をしております、紅桜ともうします。学園とのことでなにか足らないものはないかと参った次第。こちらは医務室なのですか?」
「行商……そうですか。ここはたしかに医務室です。よくわかりましたね」

忍者らしくない彼は伊作と名乗った。
授業までの間足りない薬草がないか確認しにきたらしい。
紅はかごからいくつか薬草を出して見せた。
伊作は目を輝かせた。貴重なものがいくつかあるようだ。

「でしたら今回はお代は不要です。ぜひまたきた暁にはよろしくお願いします」

もともと紅がいた里に自生していたものだ。
伊作に渡せば嬉しそうに笑う。
紅も笑えばきゅう、と切なげに腹がなる。
苦笑いを浮かべた紅にたいして伊作は食堂の場所を教えてくれた。

「ありがとうございます。では、また」

医務室を出た紅は教えてもらった食堂へと足を向けた。


はじまりの日

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