「……紅」
「なんだ、白」
「五年生だけでは?」
「六年生も白の作戦に協力したのだろう?なら、当事者同然」


白は目を細め紅をにらむ。
紅はそんなことなど、どこふくかぜといった様子。
お茶を飲みながらにこにことしている。先ほど兵助の豆腐を頬張っていたから機嫌がいいらしい。
医務室からでて三日。まだ体を動かすのはダメ、といわれながらも授業に出ていた紅はある放課後、五年生六年生を部屋に集めていた。
白もいる。

「紅、白そのままだと日が暮れても終わらなさそうだから続けてくれ」

仙蔵の制止にそれもそうか、と紅、あきれた様子なのは白。
実はこの主従年齢は逆なんじゃないかと思う日はここ最近よくある。
咳払いをしてから紅は再度口を開いた。

「紅たちがはじめてここにきた日の荷物を覚えているか」
「苦無、薬、着替え、和紙、筆記具、手裏剣、宝録火矢…」
「それだ」
「どれだ?」
「紅たちは宝録火矢は使わない」
「え、でも確かに」

あの荷物の中に確かにそれはあった。
自分たちがいつも使うのとは少々異なって小ぶりで、一連につながっているものではあったが…

「あれは紅が作った幻惑玉だ」
「なんだそれは」
「小平太は直球すぎて笑うほかないな……幻惑玉は火薬の代わりに幻惑香をつめたものだ。広範囲の敵に対して強い幻覚作用を引き起こすことができるものだ」
「幻覚…そうか、紅たちは幻術が得意だといっていたな」
「霞はもともと幻術を用いて敵をかく乱する役目をおっていたからな。もともとの主が滅んでからは一族を率いて山にこもっているわけだけど」


里の忍びには二種類がいた。
各忍がそれぞれ受け継ぐ術を行使するもの、ただの戦忍としてそれを補佐するものだ。
だが圧倒的に補佐する立場のものが少なく、また技術も劣る。
紅や白は長の一族として教育も受けたがやはり知識が少ない。だから、忍びとしての教育を求めて学園にきた。

「紅の幻惑玉は紅にしか作れない特殊な香を用いている」

紅は竹筒を出し、広げた紙のうえに中身を少量だした。
わずかに薄紅に染まる粉だ。

「幻惑玉にはほかにも火薬を込めている。火薬により爆発し、中の香を飛散させるのだ。先だっての任務ではこれをばらまいた。五年生に渡した布はこの香を通さない。紅とともに戦地に向かう忍びが使うものだ」


六年生の後ろで五年生の顔がわずかに輝いた。
紅から口布をやる、と言われたのだ。
いつか、いつのときか、紅は自分達と任務につくときがあるのかもしれない。
紅は今は同じ学年にいるが、それも期間は限定されている。
そもそもがひとつの忍びの里の長だ。気軽に話せる相手ではない。

「それはもうないのか?」
「小平太……」
「私もほしいぞ」
「ない」
「というか、持っていた分が、ですが、ほしいって七松、なにするつもりだ」
「それがあれば紅と戦場に行っても問題ないのだろう?」

笑いだす紅と、大きなためいきをつく白。
なぜか名案とばかりに顔を輝かせる留三郎に文次郎。

「だめだ。あれは特別な布だからな。霞の忍び同士であれば、仲間と見分けがつけるから」

紅の視線が五年生に注がれる。
視線を受けた五人の背筋がのびた。
白の射抜くような目線は気にしないようにする。
いつか、がきたら……
そのときは紅の隣で戦えるような一流の忍者になっているだろうか、そんなことを五年生全員が同時に思ったのは、紅も気づくことはなかった。



霞という忍び

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