「あれ?紅と一緒じゃないのか」
「紅ならあそこ」


兵助が目をやれば、三郎の縹刀を苦無ではじく探し人の姿があった。
ひとつにまとめられた黒髪が動きに合わせて宙を舞う。
縹刀をはじく音に耳をすませていれば雷蔵が兵助の袖を引っ張った。

「兵助、紅に用事なんじゃないのか?」
「うーん、そうなんだけど。紅の戦う姿もう少し見ててもいいかなーって」
「なんとなくわかる」

腕を組み、真剣に雷蔵は紅の動きを見つめる。
とある事情で今忍術学園にいる紅、兵助たち五年生よりも年は上なのだが、学園長の命令により今彼らとともに授業を受けていることが多い。

「あれ、兵助」

ひと段落したのか紅と三郎が手を止めて兵助と雷蔵のほうへ目をやった。
流れる汗を手拭いでぬぐい、紅が兵助を射抜く。
男とも女とも取れぬその表情に兵助は息をのんだ。

「どうした、兵助。紅を探していたのではないのか??」
「あ、あぁ。この前話した新しい豆腐料理ができたからさ、味見してもらおうとおもってさ」

豆腐かい、と雷蔵と三郎が同時に突っ込む。
そんな話したな、と紅は頭の片隅で思った。
苦無をしまってから紅は雷蔵の隣に腰かける。
その反対側に腰を下ろした三郎、兵助は三人の後ろに腰を下ろし、持ってきた盆に乗せていた小皿を三人に渡す。
いつもと変わらぬ冷奴がのっている。

「兵助、なにを変えたんだ?」
「食べてみたらわかるよ」

兵助の言葉に三人はあわせて豆腐を口にする。
なにが変わったのかわからないのか、三郎と雷蔵は顔を見合わせる。その二人の間でもぐもぐと紅は口を動かす。
紅?と三郎が声をかけると紅はゆっくりと視線を三郎に向けた。

「うむ、相変わらず兵助の豆腐はうまいな」
「いや、どこが変わったのかって…」
「水だろ、兵助。今までのものより少し温度が低めのものを使ったな」
「紅わかるの…?」


豆腐を飲み込んでから紅は笑顔を兵助に向けた。
嬉しそうな兵助を横目に三郎と雷蔵を見る。

「まぁ、種明かしをすれば、兵助が今度水の温度を変えてみるといっていたから、なのだけれどな」

ふふ、と笑った紅は最後の一口を食べて兵助に皿を返す。
うまかったぞ、と一言も添えた。
叶わないなぁと笑うのは三郎、水が違うだけでこんなに?と首をかしげるのは雷蔵。
紅は二人のそれぞれの様子を見ながら兵助へと視線を移した。

「紅は兵助の作る冷奴好きだぞ。また食べさせてくれよな?」
「もちろんだよ。紅の喜ぶ顔が見られるなら」


兵助の言葉に紅は笑う。
紅の一言でその後しばらく五年生全員が兵助の冷奴の試食に付き合わされるのは、また別のお話。




豆腐小僧

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