「あれ、夜白ちゃん?」

景時は休憩の最中、川辺でじっとしゃがみこむ夜白を見つけた。
横顔はかなり真剣でなにを見つめているのかと近づいた。

「夜白ちゃん、なにしてるの」
「景時様、水占をしておりました」

夜白は顔をあげると笑みを浮かべた。
同じようにしゃがめば水面には葉が浮いていた。

「水面に浮かせた葉が早く沈んだらその方とは長くはいられない。でもずっと沈まなければずっといられる、と聞いたのです」

子供のような無邪気さそのままに夜白は告げた。
景時はその横顔を見つめつつ、彼女の想い人はやはり彼だろうかと思案する。
彼女を連れてきた八葉のひとり、将臣。
彼女とはかなり親しげな様子。
彼といるときの夜白はひどく楽しげな様子。

「いつか別れてしまうことはわかっていますが、わたくしは少しでもそばにいたいと思います」

葉から顔をあげて彼女は微笑んだ。
景時の胸にわずかな痛みが走る。
将臣ではなく自分を見て欲しい。
はじめてみたときから惹かれてやまない彼女。

「景時様もなされてはいかがですか?」
「えー、俺も?」
「はい。景時さまも大切な方と長くいられるように、と」

夜白を見つめ、景時はほほをかく。
夜白は期待するように見つめる。
景時は適当な葉を選び水面に浮かべた。
ゆらゆらと揺れる葉は少しの風でも水に飲み込まれようとする。
夜白はじ、と景時の浮かべた葉を見つめていた。

「夜白ちゃん、そんなに見てなくても」
「いいえ、景時さま。見ていなければ…もし、沈みそうになった暁にはわたくしが支えなければなりませんから」

景時を見上げた夜白の目には強い光が宿っていた。
わずかに息をのみ、景時は彼女からすぐに視線を外してしまう。

「ぁ、夜白ちゃんの船…」

はっと気づけばいつの間にやら夜白の船はゆっくりと水面に沈んでいた。
悲しげに見つめているかと思えば、夜白は苦笑しただけだった。

「わかって、いることでしたもの……そんなにわたくしの命が持つとも思えませんわ」

平氏の中で、反魂の巫女として怨霊を生み出してきたその力は彼女の命と引き換えられるものだったのだ。
景時はそっと夜白を抱き寄せる。
目を丸くして夜白は景時の顔を見つめた。

「そんなこと言わないの。夜白ちゃんはせっかく俺たちのそばにいるんだから、もっと長生きして?」
「……もちろんわかっております。龍神の神子様のためにも」
「…それだけじゃなくてさ」

夜白が龍神の神子である望美に絶対の忠誠を誓っているのは知っている。
景時が言いたいのはそのことではなかった。
ずっとひた隠しにしてきた夜白への想い。
ぽつりと景時はつぶやいた。

「俺もためにも、生きてよ…」
「え…」

夜白は零れ落ちそうなほど目を見開く。
何も言えないままの夜白に景時はそっと唇を寄せた。
ひやりとした感触にすぐ唇を放せば真っ赤な顔が目に映る。
それだけのことなのに、景時は彼女が愛おしくてたまらなかった。

「好きだよ……夜白ちゃん」

想いを告げれば赤くなる夜白。
彼女の返事を聞かずに唇を幾度も重ねた。

「ま、待って…景時さ、ま…」

幾度も景時に求められ、息も絶え絶えになった夜白はようやく名前を呼んだ。
頬は赤くなり、息も切れている。
景時はそんな夜白を見ていられずに抱きしめるほかなかった。
息を整えた夜白は景時と目をあわせようともがく。

「…好き、なんだ」
「…本当の、お言葉ですか」
「もちろん。君に対しては嘘なんて絶対につかないよ」

腕のなかで夜白が笑った気配がした。
そっと腕をといてやれば、嬉しげに夜白は笑みを浮かべていた。

「わたくしの船は沈んでしまいましたが、まだ景時さまの船は沈んでおりません。ですから、まだわたくしたちに時間はあるということでしょう」

その言葉で、夜白の想いを知る。
嘘だと思いつつもうれしくてたまらなかった。
船よ沈まないでおくれ、景時はただ、夜白を抱きしめながら願いをささげた。



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