少し昔話をしようか。
そう、男は告げた。
誰だと問いかけてもあいまいに笑われるだけ。
ただ印象的だったのは少しくすんだ金色の髪をしていたことか。
片方の目はつぶれており、かろうじて赤い目であることが無事な片目から判別できた。

「あれは、いつだったか。一人の少女が迷いこんできたときからはじまったのだ」



「ルーク、あなたまた白魔術師の村を見ているの」
「そうそうー」
「やめときなさい、ザンがいない今、あなたが白魔術師に勝てるはずもないんだから」

ザンティナはいない。
あの白魔術師の少女と出会ってから少しと経たず不治の病を発症し、許嫁により治療を施されたものの体に魔物を飼うこととなり、村を出て行ったのだ。
ルークが苦笑いを浮かべてうなずいた。

「そうだな…ザンがいない以上、この村もいつ襲撃されるか」
「不吉なことを言わないでちょうだい」

彼女は髪をひるがえして村に戻っていく。
ルークは一人、いつもザンティナが本を読んでいた枝に座って足をぶらぶらさせていた。

「今回は一人ですのね」
「……またきたの?」
「えぇ、もちろん。敵の視察はしてこそ意味があるのです」

白魔術師の彼女、名前はクリスといったか…あれから何度かこの場所へときている。
ルークは苦笑を洩らしながら彼女に向けていた瞳を空へと向けた。
親友であったザンは今どこにいるのだろうか。自分も一緒にいけばよかったと後悔は尽きない。

「あの黒魔術師は?中々姿を見かけませんが」
「いないよ。村からわけあって出て行った」
「…出て行った…」

クリスはわずかに顔を曇らせた。
白魔術師といえば自分たち黒魔術師と相反するものたちだが、どうしてかルークは彼女は嫌いにはなれなかった。

「ザンに会いたかった?」
「そういうわけではありません。ですが、彼には少し嫌なものを見ていました」
「ザンは悪いやつじゃないよ。ほかよりも少し強い力を持っているだけ…本当は優しくて誰よりも賢くて。俺の自慢できる友人だ」

力がないからとつまはじきにされていた自分をザンだけが同じ魔術師だと認めてくれた。
彼の強さにあこがれて今までやってこなかった修行も行って多少は魔術が使えるようになった。

「…ザン…」
「…あなたはあの男が恋しいの?」
「違うし。俺、そんな趣味はないから…でも、この村でザンだけが俺の友達だったから」

クリスは樹の根元に座りぼんやりと空を見上げるルークを見つめた。
ただしばらく、そこの場所には二人だけの時間が流れた。


「…私は、なぜ黒魔術師が白魔術師から嫌われているのか知りたいのです。同じ魔術師同士扱うものが違うだけでここまで嫌えるものでしょうか」

幻想の中の小島
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