「パパ寝てる?」
「あれ、珍しい。じゃぁ、またあとにしようか」

その夢は遠く忘れていたものを呼び起こさせるものだった。



「おーい、ザンティナ」

樹の下から声がした。
小さくため息をついて枝の隙間から下を見ればそこで大きく手を振る姿を確認した。

「…何をしている、ルーク」
「ザン!そこにいたのかー。じゃ、おれも今からそっち行くわ」

下にいた姿が消えたかと思えばその姿は一瞬で目の前にあった。
明るい金の髪と赤い瞳、ルークを呼ばれた青年は軽々と枝の上に立ち空を見上げていた。

「ルーク、目立つぞ」
「ザンこそ。その銀髪、光って見えるからお前も目立つぞ。何しろここは白魔術師の村との境にあるんだからな…」

二人の視線の先、そこには大きな城壁で囲まれた集落が見えた。
ふん、と小さく鼻を鳴らした銀髪の青年ザンティナは手にしていた読みかけの小説を閉じ樹から飛び降りる。
ふわり、と着地すれば上を見上げた。

「ルーク、俺たちはやつらとは敵同士。あまり見ていると氷の魔法でもかけられて凍りつくぞ」
「うぉっ!待って待って!ザンがいねぇと俺も術まともに使えねぇんだって」

樹から降りた二人の青年は樹に背を向けて歩き出した。
にぎやかなルークの話しを左から右へと聞き流していたザンティナは足を止めた。

「ザン?」
「……おい、こそこそついてきているやつ。出てこい。さもなくは、足から干からびる呪いをかけてやるぞ」

低い声で紡がれた言葉にぎょっとするルーク。周りに誰かいるのかときょろきょろすれば、二人のそばの茂みが音を立てた。

「なんと、けがらわしい。だから黒魔術師は嫌われているのです」
「…白魔術師が此処に何の用事だ」

ザンティナの瞳が茂みから出て来た少女に向けられた。
栗色の髪をまとめて結いあげ、水晶でできた簪で止めている。
その両腕に刻まれているのは白魔術師たちが信仰する神の名だろうか。

「ザン…あいつ」
「白魔術師だろう、見てそのままだ」

興味はなかった。村に帰れば愛しい許嫁が待っている。
少女はじっとザンティナとルークを見つめていた。

「お前、もしかして迷子?」
「な、なんという!私はそのようなことはありません!近くに汚らわしい黒魔術師の村があると聞き、偵察に来たのです」
「やめておけ、お前のような小娘では相手にならん」
「あはは、ザンは手厳しいなぁ。村に戻りたいなら送還魔法使ってやるよ。ザンがいれば俺たちが使ったとはわからないだろうから」

ルークの言葉にザンティナは視線に殺気を込めた。
きづいているのかいないのか、穏やかにルークは笑う。
少女はしばらく悩んでいるようだったが、これもまた偵察を考えたのか、頼みますと告げた。

「ほら、ザンティナ」
「なんで俺まで」

ため息をつきつつもザンティナはルークと手を重ねた。
二人の間に門が生まれ扉が開いていく。
少女は目を見開いていた。

「はい、どーぞ」
「二度と来るな」

ルークとザンティナの声に押され少女は扉をくぐる。
自分の村のそばに出たかと思えば一瞬で扉は消えていた。

「やっぱりザンの魔法はすげぇな!あれだけの大掛かりな転送魔法を奴らに知られずに使うんだから」
「それはお前がいるからだ、ルーク」

苦笑をもらしながら村へと歩みを進める。
ザンティナは様々な魔術を得意とするが細かな調整が苦手なこと、その身に秘める魔力が多いことから魔法を使えば感知がされやすい。
対してルークは繊細な魔術を使用し、特殊な結界を作れることから魔術師用の痕跡を消すこともできる。

「戻れたかなぁ彼女」
「興味はない。交わる必要もないのだからな」

村に入りながらザンティナは告げる。
交わりを禁じられている以上は関係性はこれで終わりと思っていた。
終わるはずもなかったのに。


黎明
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