自分が死んだことは感じていた。でも、なんでまだここにいるのかはわからなかった。

「お前の強い願いが私を呼んだ。対価と引き換えにかなえてやろう。何を望む」

願いなんて…と思って気付いた。
俺は、あいつに謝ってない。あいつに、きちんと謝っていなかった。
死を命じた俺に、あいつは笑ってうなずいて逝った。

「願いは、それか。お前に体を与えてやろう。声も出ないのでは不便だからな」

何かに吸い込まれる感覚がしたかと思えば、眩しさを感じた。
目を開いたその先に黒装束の男がいた。その後ろには白い着物をきた男、飴をなめる少年、腕を組んでこちらを見る青年がいた。

「お前、名は」
「忘れた…」

かすれた声だった。
名前なんて、死んだあとにはもう関係ない。

「では、郁という名を授けよう。私がお前の願いをかなえる代わりに求める対価は力だ。私がいいというまでお前には私の手足となって動いてもらう」

文句はなかった。
願いを、あいつに謝ることができるのならばどうでもよかった。
さて、と男が差し出したのは美しい装飾が鞘に施された日本刀。
自分もよく使っていたゆえに懐かしく思う。

「手を出せ。コレがお前を気にいれば、より強い武器となろう」

自然と手が伸びた。
しかしその柄を握った途端鋭い痛みが走る。思わず刀をとり落とした。
見れば柄には鋭い牙の生えた口が無数に開いていた。
手を見れば食いちぎられた肉がぶらさがるもそれはすぐに消えて行った。

「手を放すな。それはお前の業を食らう。やつが気にいれば、お前は所有者と認められ、その力を使うことを許される」

痛みに歯を食いしばり必死に耐えた。
やがて痛みはなくなっていく。柄に開いていた口はいつの間にか閉じていた。
手の中に収まる刀はまるでずっと昔から自分の所有物であったかのようになじむ。

「…契約は為された…お前には以後私の手足となってもらう」

体が動いた。手にしていたはずの刀はふっと溶けるようになくなってしまった。

「刀はお前が必要とするときに姿を見せる」

歩きかけていた銀が振り向きそう告げた。
そうなのか、ととくに感動することもなくうなずいていた。
銀のあとを追いかけるように歩みを進める。
一歩踏み出すごとに体に服が着せられていった。いったいどういう仕組みなのか考える暇もなく彼は銀に追い付いていた。





業を喰らう
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