人でないことはわかっていた。でもその清らかな笑みと優しさに俺は救われたんだ。

「おはようございます。お目覚めですか?」

目を開ければ窓からさす太陽の光と君の笑顔が目に入る。ベッド脇に近づき俺をのぞきこむ君を抱き寄せ唇を重ねる。

「ん……お寝坊さんですね。朝ごはんできてますよ」

そう言って笑う君。俺は知っているんだ、君が人間ではないことを。
でも、それでもよかった。君だから好きになったんだ。少なくとも君と出会ってからの一年はそれまでの人生に比べたら比べようがないほど輝いていた。

「倖、もう一回キスしたい」
「えぇ…もう、仕方のない人ですね?」

ふわりと笑う綺麗な君。重なるピンク色の唇。
あぁ、俺が死んだら君は泣いてくれるんだろうか。
そんなことを考えていた。いつか俺が死んだとき、せめて君が悲しまないようにするにはどうしたらいいんだろうかと。


人を愛さないと決めた。だからいつも身にまとうのは白い服。
いわゆる死に装束。愛することを辞めた自分への。
愛さないと決めたその誓いはあの人と出会ったことによってたやすく破られてしまった。
日だまりのようなあたたかな笑い声、その存在自体が私を救ってくれる。
でも、それでもやはり私はこの人を不幸にしてしまった。
働いていた会社を首になり、派遣で暮らす日々。それでも私を気遣って少ないお給料で何処かへ連れて行ってくれる。
私はあなたのそばにいられるだけで十分なのに。

「愛してるよ、倖」
「私もです」

告げる言葉にウソはない。
このままいればいつかは彼の命さえも奪ってしまうだろう。それは予感ではない。もはや倖にとって必然となったこと。

「倖、ありがとう」
「なんですか、急に」
「君がいてくれたからこの一年幸せでいっぱいだった…いままでにないほど…だから、ありがとう」

倖は彼が眩しかった。こみ上げてくるものをこらえながら倖はそっと抱きつく。
彼の手が倖の手に重なる。倖は涙をこらえて微笑んだ。

「私も、ありがとう…」
「…これからも、ずっと一緒だよ、倖」
「はい…」

これからどのくらいともにいられるか倖にはわからない。そしてこれからも倖はきっと白い服を着続ける。
彼のように愛して不幸にしてしまった彼らの追悼、そして、今後もきっと愛することをやめられない哀れな自分への戒めとして。

死に装束
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