「知らぬ存ぜぬ、では済まされぬぞ、魔術師よ。あの子供は何処に隠した」
「知らん」
「知らぬと己がために…っ!」

悲鳴とともに魔術師が消える。
義んは大きなため息をついて深くソファに座りこんだ。
長く息を吐き出せば扉をノックして入ってきた倖を見る。

「お客様でしたか」

銀の足元に転がるもともとは人間だった黒い塊を見て笑みを崩さずに倖は問いかける。
銀はうなずくと、指を鳴らしてからその塊を消滅させた。

「まったくしつこいやつらだ。誰が簡単に渡すものか」
「白魔導師の皆様は、響さんのことをどこで知ったのでしょう」
「世捨て人同然の私が子供を囲っているとすぐに知れる。私たちの情報網は甘くないからな」

銀は倖の持ってきた赤ワインを口に含む。
一息ついてグラスをテーブルにおき、目を閉じた銀を倖は見つめた。
やがて空になったグラスを手にするとゆっくりと部屋を出て行く。
どれくらいそうしていただろうか。
銀はゆっくり目を開けると目の前の棚に飾ってある小さな水晶を見た。
ゆらゆらと青白い炎が内部で燃えている水晶は何を銀に伝えようとしているのかわからない。
だが、銀には理解できていた。

「…すまぬな。獄につながれたお前を救ってやれず、子供でさえあの状態だ…」

水晶には青白い炎しかない。
しかし銀にはそこに映る姿が見えていた。

「…響を、あんな姿にして鎖につなぎ止めたのは私の責任だ…お前に顔をあわせることはできんな」

銀はそう独白しながらかつて友と呼んだ二人の黒魔導師と白魔導師を思い出していた。
本来ならその使う魔術が異なるゆえに対立するはずだった二人の魔導師が恋に落ち、そして子供が生まれたことで悲劇が訪れた。
銀と同じく黒魔導師であった男は仲間に殺され、白魔導師は子供を抱えて銀を頼ってきた。
銀はとりあえず白魔導師をかくまったが彼女は子供を銀のもとに残し仲間のところへ戻っていた。
そして、銀は彼女たちの子供に強い力があることを知ったのだ。

「……すまぬ…」

銀はぽつりとつぶやいた。
本来なら強い力を持った以上それを制御するすべを教えなければならない。
しかし、銀はそれをせずに子供に強い術をかけた。
銀が生き続ける以上発動し続ける、封印の魔術を。
だから彼は己の身の内にある強い力も親の顔も知らなかった。

「ぱぱぁ?ご飯できたよー」

背伸びして扉を開く姿に銀は笑みを浮かべた。
白魔導師も黒魔導師も、彼を探そうと躍起になっている。
銀のもとにいることは分かっているのに証拠をつかめない以上彼らが銀を捕まえることはできない。
銀は幼子のもとにむかうとそっとその体を抱き上げた。

「すまないな…少し考えごとをしていた」
「困ったパパですねー。今日のご飯はハンバーグですよー」

自分の運命など知らないままでいいと銀は思う。
小さな暖かさを腕に銀は部屋を出て行った。
その間際、水晶を見つめてゆっくり微笑んだのを、腕に抱かれた子供は知らなかった。

白と黒の饗宴
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