ミカナギと、響が死んだ。
笑って逝った。

『ぱぱぁ?』
『銀』

大切な、二人の子供の喪失に、老いるはずのない銀が、老いたように倖は感じた。
倖だけではない。
郁も暁も聖も同じように感じだ。

「銀様…」
「二人が戻ってくるのはまだ何世紀も先だ。そんな簡単には戻ってこれない」

郁は腕組みをし、二人のよく過ごしていた部屋の中でうなだれる銀を見つめた。
暁、郁、聖の三人はもともと彼ら二人を守るために蘇らされたものたち。
その二人が死んだ以上、彼らに出番はない。
だが、銀は三人を消そうとはしなかった。
消せないほど、その気持ちは遥か遠くに行ってしまっていたのだ。

「銀は、またひとりになったんだね」

あのふたりがいるときには明るい笑い声も聞こえていた家なのに、今はただ暗く重い空気が家の中に淀んでいるだけだ。
倖は銀にかける言葉も見つからなかった。

「外で煙草吸ってくる」
「僕もいっしょにいくよ」
「俺も」

郁を先頭に聖と暁は外へ出て行く。
倖は静かに銀のいる部屋の入り口で正座していた。
銀はぼんやりと響が大事にしていたくまのぬいぐるみを見つめている。
その顔に、生気はない。

「銀様…」

銀の気持ちがわからなくもない倖は小さく目を伏せた。
どのくらいそうしていただろうか。
倖はあわてた足音に目を開けた。
まだ銀はうなだれている。

「倖、銀っ!」
「郁…?」
「ちょっと、外大変なんだよ!」

聖が倖の腕を引っ張る。
郁と暁は銀を立たせて表へ出た。
何のことかわからない二人であったが、表に出た瞬間思考がはっきりした。

「……響さん、ミカナギさん…?」
「響…」

倖と銀、二人の目の先には確かに死んだはずの二人の姿。

「ぁ、パパと倖ちゃんだー」

ひしっと抱きついたのは響。
銀は幽霊でも見たかのような顔をして響を見る。
凍りついてしまった倖のそばに近寄ってきたミカナギはそっと倖の手をとった。
その手は暖かい。

「俺たち死んだはずなんだけど、あまりに銀や倖が悲しむから、戻ってきちゃった」
「パパは寂しがり屋さんなのー」

ねーっと笑う兄弟は確かに本物。
何しろ心臓の鼓動まで感じるのだ。

「響…」

夢ではないのかと銀は自分の頬をつねる。
痛みがあった。
銀はようやく響を抱き上げて笑った。

「そうか…おかえり、響、ミカナギ」
「ただいま、パパっ!」

銀は響を抱きしめる。
倖、郁、暁、聖はその様子を見てほっとしたように微笑んだ。


喪われたもの
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