雪村千鶴は行方の知れなくなった父を探して江戸から京都へやってきて、そして新選組に居候することとなった。
千鶴が女であることを知っているのは局長近藤以下、監察の山崎と島田を含めた少数の幹部のみである。

「わかるよ、君は少年というにはどこか柔らかそうだから」
「…柔らかい」
「女性特有のやわらかさだよね。かくいう私も同じく女だ。似たものを感じたのかもしれない」

千鶴は目の前の客人を見た。
すらりと伸びた体はどこか土方を想わせるものがある。
ふっと微笑みを浮かべた唇にはうっすらと紅がひかれていることに気付いた。

「私は、鏑木千里。わけあってこんな恰好なんだ。土方クンと近藤サンは知っているんだけど、あとは知らない。だからできれば他の人に内緒にしてくれるかな?」
「はい」
「ありがとう、いい子だね」

鏑木千里となった客はやがて聞こえてきた複数の足音に顔を向けた。
千鶴も隅に寄る。
障子を開いて入ってきたのは人懐っこい笑みを浮かべた男であった。

「鏑木くん!よく来てくれたな」
「お久しぶりです、近藤サン。ぁ、今は局長とお呼びしたほうが?」

くすくす笑い、千里は男を見た。
近藤勇、千里や千鶴のいる新選組の局長である男であった。
その後ろにいくつか人影があり、近藤に続いて部屋に入ってくる。

「なぁ、千鶴、あれは?」
「ぁ、えと…」
「まぁ、みんな座ってくれ。彼の紹介をしなければならないからな」

みな、思い思いの場所へと腰を下ろす。複数の視線の中でも千里は堂々として見えた。

「彼は鏑木千里くん、俺とトシの知り合いなんだ。江戸から、家族の仇を探すためにきた。新選組の新しい隊士だ」
「はじめまして」

千里はにっこりと微笑みを浮かべ軽く頭を下げた。
怪訝そうな視線を受け千里は口を開く。

「江戸で武術師範をしていた父の弟子に両親、双子の兄と姉を殺され、彼奴の姿を京でみかけたとの知らせを受けて此方へ。まぁ、近藤サンには前々から新選組に誘われはしてたんだけど」
「うむ。彼の腕は保証する。それでな、監察方に入ってもらおうかと考えていたんだが…どうだろうか」
「私は近藤サンの意のままに」
「そうか。では、よろしく頼むな?みんなも仲良くしてやってくれ」
「近藤さん、本当に彼強いんですか?」
「総司…」
「気になるのならいくらでも手あわせしてあげるよ。でも今夜はもう遅い。できれば明日にしてくれないかな」
「そうだな。総司、気になるならまた明日にしよう。みんなも今日は疲れているだろう。そろそろ引き上げよう」

近藤の一言でみんなぞろぞろと立ち上がる。
部屋に残ったのは土方と千里だけだった。


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