二十八

「千鶴、千里」


長州兵との小競り合いの続く公家御門、そこに着けば二人に気づいた原田が声をかけてきた。
千里は原田の前にでると槍の穂先なら布を取り去り戦場へ飛び込んでいく。

「千鶴、前にでるなよ」

千里の後ろ姿をみながら原田も千鶴に声をかけて千里のあとをおった。

「新選組だっ」
「おのれぇっ」

怒号が響く。
そのたびに原田と千里の槍が煌めいた。
新選組の援軍もあり、戦いは長くは続かなかった。
長州兵たちは血を吐くような声でうなり駆け出す。
それを役人が追いかけようとした。
そのときだった。


「てめえらとはこのオレ様が遊んでやるぜ!」

長州兵の最後尾を割って一人の男が出てくる。
頭頂部で結んだ藍色の髪、両肩をだした着物に左腕の入れ墨。
千里と原田は新手に足を止めたが、男は言うが早いか銀色の何かを掲げ



「っ!」


甲高い音が響く。
千里の頬を音と同時になにかが掠めた。
後ろの千鶴の目に男が持った、硝煙をあげる銀の筒が入った。

「おやまぁ…それは拳銃か」
「よぉく知ってんじゃねぇか。銃声一発で腰が抜けたようなやつらのくせに」

男は愉快げに顔を歪めた。
銃の恐ろしさよりも、男の雰囲気が異様であった。
遙に多い敵の数、彼はそれを前にしても怯まない。
それどころか楽しんでいるようでもあった。


「千里、下がれ」
「ずるいよ、原田クン。飛び道具同士私もやりあいたい」

頬を流れる血はそのままに、千里は自分の前にたつ原田をみた。
原田はそれ以上はなにも言わず槍を突き出す。
非常に不満そうにしながら千里は槍を納めた。


「千里さん…!」
「雪村クン、どうせだから原田クンを応援したらどうだい?」


軽い口調で千里はつげた。
困ったような千鶴の表情を楽しむようにみていたが、原田が槍を納めたのを横目でみるとそちらへ顔をむけた。


「新選組原田左之助、次は殺すぜ」


男はそう告げて背を向けた。
千里は去っていく男の背中を追いかける気配を感じつつ戻ってくる原田をみた。

「長州兵は追い払った。でも彼らはこの先が大変だねぇ。このまま長州に無事に戻れやしないだろうに」


御所に討ちいった長州兵は追われ、いったい何人が戻れると言うのだろうか。
千里の言葉に千鶴が顔を曇らせる。
その頭を優しくなでながら千里は己の頬の傷をそっと撫でた。
血のあとが残るそこには、銃弾が掠めた傷跡など何一つ残ってはいなかった。


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