旦那様は心配性


 


ふっくらとした大きなおなか。
春歌は愛しの旦那様である蘭丸の子供を授かり、只今出産予定日の1ヶ月前期間である。

作曲家である春歌はその日、蘭丸と住んでいる家のリビングで作曲をしていた。
四匹の猫達が行き来し、蘭丸も過ごすこの部屋は春歌にとって自分の部屋よりも落ち着く空間だったりする。
3時前になると、春歌は手を休めて書き終わった楽譜を纏めた。
そろそろ蘭丸が帰って来る時間だ。今日は夕食の買い物に一緒に行く約束をしている。
早く帰ってこないかと、少しドキドキしていると
不意にぐるるっと甘えた声で二匹の愛猫が春歌の側にやって来た。
春歌は持っていた楽譜を机に置くとふわりと微笑み二匹を優しく撫でた。


「蘭丸さんは、もうすぐしたら帰って来ますからね」


優しい声色を溢しつつ一匹の猫を胸元に抱き上げると、猫は春歌の頬にすりつき肩に手を乗せた形で落ち着いた。
すると、もう一匹の猫も羨ましかったのか春歌の肘に手をかけて体を上ろうとお腹に足をかけた。


「バカ!妊婦の体に上るな!」


猫が力一杯上る前に、その体が離された。ついでに胸に抱いていた猫も取り上げられて、春歌はその焦ったような声にきょとんとした顔を向けた。


「蘭丸さん?」


そこにいたのは二匹の猫を抱えた旦那様。蘭丸は少しだけむすっとした表情で猫に説教した。


「たく、隙あらばこいつに乗ろうとしやがって」

「ふふ。私は大丈夫ですよ」

「大丈夫じゃねぇ」


蘭丸は猫を日当たりのいい窓の側に下ろすと春歌の後ろに座り、お姫様抱きにするようにして自分の脚の間へ春歌を引き寄せた。
お腹を守るように手を添え、肩に小さな頭を寄せて。背中を支えるように後ろから手を回した。
猫達がまた近付いてくる気配を感じつつ、蘭丸は春歌にそっと口付ける。


「おかえりなさい。蘭丸さん」

「ただいま」


瞳を反らさず挨拶を交わすと、蘭丸は春歌の首筋に鼻先を埋めて息を吸い込んだ。
さらりさらりと蘭丸の髪が撫でられる。ちらりと春歌をみると、にこりと優しく笑っていて。
蘭丸は腕を背骨伝いに滑らせ春歌の小さな後頭部を掴まえると、先程とは比べものにならない濃厚なキスをした。


end
猫達は懲りずに春歌の側にやってくる。春歌のソファー変わりになりつつ両手を繋ぐ蘭丸を尻目に猫達は蘭丸の足や春歌の太股を枕に微睡み始めた。

(蘭丸さん、夕食の買い物は…)
(もう少しあとでいいだろ)





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