▼ 手塚編
▼手塚と御祖父様とまこ。それを見守る両親
ある日の日曜日。
手塚家の縁側では男二人が子猫を囲み、ねこじゃらしを振っていた。
ふわふわで丸いねこじゃらしと、白くて長いねこじゃらし
どちらもまこのお気に入りだ
「みゃ(あ!逃げた!)」
「………」
「みゃ(う…!ダメだ)」
「………」
ぽとん、と勢い良く御さえ込んだり
揺れるねこじゃらしを捕まえようとするまこ。
だが、二人は容赦なかった。
まこが動けば直ぐに反応し、子猫相手に大人げなく逃げる丸いねこじゃらし(御祖父様)
まこが捕まえようとすると、一応逃げるがたまに掴ませてあげる長いねこじゃらし(手塚)
その様子を傍から見ていた父は、新聞から顔を上げ苦笑した
「無表情で遊んでる…。よく怖がらないなまこは」
「あら、二人とも楽しそうじゃないですか」
「そうか?」
「ほら、国光もお父さんも笑ってるわ」
二人を微笑ましく見守る母に、父はもう一度二人の方へ目を向けたが
どこをどう見たら楽しそうに見えるのか、全くわからなかった。
「みゃ(手塚の取った!)」
「ふ、捕まってしまったな」
まこが手塚のねこじゃらしを捕まえると、むっとした御祖父様は
手塚に対抗するように自分のねこじゃらしをまこに近付け、勢いよく振った
「これまこ!こっちの方が早くて捕まえがいがあるぞ!」
こうして、日曜日の午後は過ぎて行く。
そんな日常。
▼ルアーの手入れ中
次の日曜日に御祖父様と釣りに行く事になり
手塚が部屋でルアーの手入れをしていると
少しだけ開けていた扉からまこが入ってきた。
チリンチリンと鳴る鈴に、手塚が顔を上げると
まこはすりーっとベッドに体を擦らせ、トトトーっと手塚に駆け寄る。
「みゃ(何してるの?)」
手塚の隣にちょこんと座ったまこは、きょとんとした瞳で手塚を見上げた。
「危ないから、これに触っては駄目だぞ」
ふと微笑んだ手塚は見上げるまこをふわふわと撫で、作業を再開する。
それからじっと作業を見ていたまこだが、しばらくすると
まこはルアーに顔を近付け、奇抜な色の魚とキスをした。
「ふ、魚は嫌いだろう?針が刺さるぞ」
控えめに噛み、ルアーを持ち上げたまこに
手塚は小さく微笑み、それちょーだいと手を差し出す。
すると、ちゃんと手に返してくれるところが可愛いらしい。
手塚は一度ルアーを置くと、まこをひょいと抱き上げ
危なくないよう自分の着ていたパーカーの中へ入れた。
「ここでおとなしくしているんだぞ」
ファスナーを臍辺りまで開けると、まこはそこから顔を出し
手塚との密着感が安心するのか、気持ち良さそうに目を細める。
手塚がそのままルアーの手入れをしていると、不意にまこの手が伸びて来たが
それはルアーを狙ったものではなかった。
「思い切りのいい寝相だな」
脚が顔の横にあり、手が飛び出している姿。
手塚はふわふわと小さな手に触れると、服の中に手をしまってやり
小さな温もりを感じながら作業をした。
end
prev / next