▼ 愛情に溺れてしまうかも
新年。朝から何人もの客人が屋敷を訪れ大忙しの跡部家では跡部財閥主催のパーティが行われていた。
毎年のことなので家人は慣れたように対応しているが、つい先日跡部に拾われ跡部家にやって来た名前は全てが新鮮で初めての体験だった。
本日は跡部がどうしても会わなくてはいけない人が来ているらしく、少しだけパーティに出ている。名前はいつものようにマルガレーテに預けられていたのだが、パーティとはどんなものだろうかと気になり外に出てきていた。
パーティには跡部財閥に関係する沢山の企業の偉い人達が来ていた。広間では立食パーティが行われていて、跡部もその中にいる。
「(すごいね)」
「(お正月ですからね)」
パーティの邪魔にならないように上の階から見下ろす。隣にはボディーガードのようにマルガレーテがついてきていて、いろいろと説明をしてくれた。
「(今景吾様とお話しをされているあの方は、この前キャットフードをくれた方ですよ。キャットフード専門の会社の方です)」
「(あ、そういえば見たことある)」
「(その隣はペットグッズ企業の方ですね。この間私用にリードを作ってくれた方です)」
「(あぁ、あの綺麗なやつ!僕もマルガレーテに似合ってて大好き)」
ふわりとマルガレーテの頬に鼻先をくっつけると、くすりとマルガレーテは笑った。
跡部財閥は、名前が跡部家に来てからというものペット関連にも手を出しはじめた。健康食品の開発をさせたり、新しいおもちゃを作ったり、寝具やお手入れグッズの更なる使い心地を研究したりなどなど、最近では医療にも進出しようとしている。
最初は名前やマルガレーテの為にいいものをと思って作らせたのだが、いつの間にか今ではそれが商品になり、会社となってしまった。恐るべし金持ち。
「(ご飯がおいしくなるのも、おもちゃがたくさんあるのも、ベットが新しくなるのも有難いとは思うけど、あんまり僕にお金を使わないでほしいな…)」
いつの間にか野良猫になっていた僕がこんなに幸せでいいのだろうか。
マルガレーテにぴっとりとくっつくと、マルガレーテはペロッと名前の頬をなめた。
「(景吾様は名前が大事で、とてもとても、可愛がってくれているんですよ。名前は遠慮しすぎです)」
「(そうかな…?)」
マルガレーテを見上げると、その視線が急に高くなった。それと同時に背後から暖かい温もりに包まれる。
「名前、こんなところでどうしたんだ?迷子か?」
ふわりと耳に吹き込まれた甘い声色。名前が振り返るとそこには大好きなスカイブルーの瞳があった。
「(跡部…!いつの間に)」
「匂いに釣られて来たのか?そろそろ飯時だな…一緒にたべようか」
ふわりと頬に降る唇。客人との挨拶を終えた跡部はすぐにパーティを抜けて来たらしい。跡部は名前を抱き上げたままマルガレーテを呼ぶと一緒に部屋に戻って行った。
「ふ、どうした?今日はねこパンチはなしか?」
いつもはキスをすると弱々しいねこパンチが飛んでくるのだが、今日はそれがない。跡部が名前の顔を覗き込むと、名前は恥ずかしい顔を隠すかのようにすりーっと跡部の鼻筋に額を擦らせた。
「みゃー(今日は特別!跡部、いつもありがとう。今年もよろしくね)」
end
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