背水の陣


 

俺には彼女がおる。
その彼女は、二重の目はぱっちり可愛ええし、睫毛も長めで、贔屓やなくて、周囲の人間も認める美人さんや。…そして、謙也すら呆れる程の、超≠ェつく天然や。


「蔵ノ介くん?」
「…いや、なんもあらへんよ」


せやから、なんや危なっかしくて目が離せへんのや。つまり、じっと名前を見つめる様な事になる訳やから、ぶっちゃけた話、挙動不審になりそうや。


「そうなの?疲れてない?」
「大丈夫やで?」
「ホント?よかったぁー」


適当に相槌を打…て、ああもう、そんな顔で笑うんやないって!
ただでさえ破壊力あるんやから!


「気分悪いのかと思ったよ」
「俺はいつでも健康やで?」
「なら安心だね!私が病気になったら、私の介護してね」


ほんま、天然っちゅうか…、なんなんやろ。ものごっつ可愛すぎるやろ。狙っとんのか。いや、狙っとらへんな、こいつは神憑きの天然で鈍感な子やもん。
「お、おん。任せとき」
「よろしくー」


にぱー、と笑いよる。あ、マイナスイオン出とる。俺には見える!ああ、あかん幸せや。癒される。


「あ、蔵ノ介くんの鼻、赤い」
「…お?」


そら、寒いもんなぁ。
俺はのんびり悠長に考えとった。それがあかんかった。だって相手は名前やもん。油断しとった。


「やっぱり冷たいねぇ」
「っ、」


ちょ、ちょ、ちょお待てや!
鼻、鼻!名前が背伸びして俺の鼻つまんどる!てか、顔が近いねん!あかん、キスしたい。それ、誘ってるんか?なあ、誘ってるんか!?名前、気付いとらへんやろ。男は皆、狼や!…あ、名前の場合は知らへんのかもな。


「……なあ、名前?」
「なにー?」


ひとまずキスしてまえ。




背水の陣




「ひあっ、蔵ノ介く…っ!」
「…この、天然め」


可愛すぎるやろ。そう呟く、誰も居らん帰路の小道。名前を壁に押し付け、もっかいキスしてやった。


(……背水の陣やな)


ここまで来たら引けへんやん?
せやから、いくら天然な名前でも分かって欲しい。つか、分かっとるやろ、多分。いくら名前でも。せやから、頼むで?名前。






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