恋心、知らず。


 

俺、白石蔵ノ介は日々苦労している。

それは、ただいま片思い中の相手をほかの誰かに取られへんようにすることや。


「白石、おはよ」

「お、おん。おはようさん」


それが彼、名前。

名前は去年俺たちが二年のときに東京から転校してきた。
俺は初めての転入生に期待を膨らませとって、いざその転入生を見た瞬間。
――一目で恋におちてしもた。

それが俺の苦労の始まりや。

名前っちゅー人間は一言で言えばふわふわしとる。
まぁ猫っ毛で色素の薄い髪もふわふわしとるけど・・・。
そうやのうて、ホンマに、掴み所がなくて笑った顔や性格や、とにかくふわふわなんや!!

そんな名前は誰に対しても優しくて、俺同様好意を寄せる連中は数え切れないくらいおった。
それは女子だけに限らず男子も。
もちろんテニス部も例外やない。


「名前ー!!こっち来いや。たこ焼きあるでー」

「何言うとるんですか、謙也さん。食べ物でつるなんで最悪っすわ。謙也さんなんてほっといて俺と善哉食べましょ?名前先輩」

「何でやねんっ!!名前は俺と小春と一緒に漫才やるんや!な?名前」

「名前ー、こっち来ていっしょにトトロば見んね?」


今日も今日とて、あらゆる手段で名前を自分の下に来させようとするレギュラー達。
名前も名前で一部を除く魅力的なお誘いに悩んどる。

アカンアカン!!あいつらに名前渡してたまるかっちゅーねん!!


「アカンッ!!ちゅーかお前等はよ練習行けや!」


名前を抱きしめながらしっしと他のメンバーを追い払うと、名前に手を引っ張られた。

「白石」

「なんや?」

「後でみんなで一緒にトトロ見ながら善哉とたこ焼き食べて漫才しようなっ」


素晴らしい位の笑顔で言われるが、どうやってそれ全部いっぺんにやるんや・・・。

でもその笑顔に俺は言葉を返せず、恐らく赤いであろう顔で頷いた。







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