柳家強さグラフ
柳家男性陣には、暗黙の掟がありました
「みゃー(あれ、柳がコーヒー飲んでる!)」
ある日の日曜日
柳家の居間には甘い香りが漂っていた
「匂うか?」
まこが柳に近付けば、ふと微笑んだ柳はコーヒーカップをまこに近付ける
「なぅ(しかも甘いやつだ!)」
まこが興味深そうに顔を近づければカップからはミルクと砂糖の甘い香りが漂ってきた
「みゃー(珍しいね、柳。いつもはお茶なのに)」
きょとっと首を傾げるまこに、柳はふわりと微笑むと
片手でまこをひょいと持ち上げ胸元へ抱き上げた
今日の服装は和服の柳
それなのに甘いカプチーノを飲んでいるとは
なんとも妙な組み合わせだ
「蓮二−!ちょっと来て来て!早く−!」
柳がカプチーノを飲みながらまこの手をもふもふと触っていると
台所の方から姉さんの声が聞こえてきた
「…はいはい」
姉さんは昨日の夜からこっそりと食材を買い込み今日を楽しみにしていた
父さんと母さんは昼から歌舞伎を見に出かけている
そんな今日は二人の結婚記念日だった
「蓮二!これ焦げないように混ぜてて!」
柳が台所へ行くと姉さんは沢山の料理の下ごしらえをしていた
柳家は皆薄味の和食好き
今日の夕飯は姉さんが作ると張り切っていて、二人は夜まで家に帰って来る事を禁止されていた
「ついでに隣の煮物の味見して」
柳が言われた通りに鍋を掻き混ぜていると、姉さんは小皿に煮物を少しとり柳の口へ近付けた
「…母さんの味に似てますね」
差し出された煮物をパクリと食べると、味わい
柳は姉さんに感想を述べた
「本当!?よかった」
「…いや、さっきのカプチーノの味が残っているから、甘さが足りないのかも」
「えーなにそれっ!もう」
柳が料理上手になったのは、よく姉さんや母さんに手伝わされているから
煮物の味も、作り方もよく覚えている
柳に茶化されぷりぷりと怒った姉さんは頬を膨らませると少し味を足し、次の料理の準備を始めた
今日の柳家は、みんな和服
まこも今日だけはいつもの青いリボンを外して桜柄と桜のワンポイントがついた首輪をしていた
いつものリボンには鈴がついていて音が鳴る為、まこが来た事が分かるのだが
今日の首輪にはついていない為、足音なく居間から台所へ移動してきたまこ
椅子に上り、テーブルに上ると沢山の皿の間をトタトタと抜けたまこは広い真ん中のスペースへずさーっと寝転んだ
「きゃっ!びっくりした!まこか」
姉さんはほかほかのご飯が入った入れ物を腕に抱えて来るとそのスペースへ置こうとした
が、まこにふわりと腕が振れ、驚いて下を見た
「まこ、ちょっとこっちに移動してくれるとお姉ちゃん助かるな」
入れ物を一度椅子へ置き、食器棚から何かを持って来た姉さん
「みゃ(ここ?)」
それは小さな鍋で
きょとっとしたまこはひょいと鍋へ体を入れた
沢山の料理が並ぶ中、テーブルの端には猫鍋がちょこんと置いてある
ちらし寿司を作り終えた柳が洗った食器を片付けていると、目に留まる小さな鍋
「まこ、鍋をしまうから椅子に移動してくれないか?」
くすりと笑い、鍋を持ち上げて椅子へ近付けると
柳を見上げたまこはぽふりと柳の頬へ肉球をくっつけた
「みゃ(ダメ!)」
「ふ、気に入ったのか?」
けれど柳が抱き上げると、まこはぴとりと柳の首元にくっつきおとなしくするのです
end
柳家の強さグラフ
柳<父<母<姉<まこ
父を立てるところは立てますが、家計を握る母強し
しっかり者の姉さんに弟の立場の柳はもちろん両親さえ娘には敵いません
*おまけ*
カプチーノは姉さんが作った物
ちょうど柳がお茶を煎れようと台所へ行った時
「蓮二!今日はこれ飲みなさい」
休憩中の姉さんに柳は作り過ぎて余ったカプチーノを渡されたのだった
「…はい」
柳の好き嫌いが少ないのはこのせいかもしれない
昔からよくこういう事はあるので柳は逆らわずに渡されたカプチーノを受け取った
柳家暗黙の掟
女性陣に逆らうべからず
第八回拍手御礼小説