さあ、杯を持て




時臣さんを訪ねてきたはずなのに、いつの間にかわたしはダイニングでギルガメッシュと酒の番をしていた。
そもそもは時臣さんが不在だったのが原因で、帰ってくるまで待たせてもらうということになり今に至る。
テーブルには既に4本の空いたボトルが転がっていた。
そして今、ギルガメッシュは機嫌をよくして5本目をあけようとしている。
ガラスケースから高価な順に取り出されていっているのを見て、いくら図太いと言われるわたしでもさすがにこれはやばいと思った。


「ねえ、ぎるがめっしゅ、もうだめだよ」
「何?」
「ごしゅじんさま、ふざいなのに、こんなにのんじゃあ」
「ふむ」


ギルガメッシュは返事をしたくせに、良さそうなワインを見繕ってやっぱり栓を抜いてしまった。
こぽこぽと音を立てて、グラスが満たされていく。


「ならばこのまま帰るか、グラム?」


二人分のグラスを満たしてボトルを置くと、ギルガメッシュは横目にこちらを見た。
その目は何だか、笑っているように見える。


「うん、かえる。ときおみさん、かえってきたら、またくる」
「その体でか」


ソファから立ち上がったわたしの膝は真っ直ぐしていることが出来ず、がくんと折れた。
視界がぶれて、眩暈がする。
立ちくらみをしたようだった。

危うくテーブルに倒れこみそうになったわたしの体を、ギルガメッシュが片腕で抱きとめてくれた。


「ほらグラム、現実を見ろ。ここまで潰れてしまっては、お前ひとりで帰ることなどもはや叶わぬだろう」
「じゃあ、おくって」
「お前は酔うと立場まで忘れるのか、雑種め」


もはやギルガメッシュの支えなしで立っていられないわたしは、彼が再びソファに腰掛けるのと同時にその隣に倒れこんだ。
これは自分でも気づかぬうちに、相当酔ってしまっていたらしい。
さっきから舌も上手く回らない。


「ときおみさん、おそい……」


非難するように彼の名を口にするが、それでただいまとすぐに帰ってくるわけでもなく。
そもそも少し待てばじきに帰ってくるというギルガメッシュの言葉を信じたのがいけなかったのだろうか。
もう時計の針は10時を回り、それはわたしが訪れた時より3時間も経過していることを表していた。


「はあ……ひづけかわるまえに、かえってくるかなあ」
「何を言っている、時臣は今夜、この家には帰らぬぞ」
「へ?」


寝耳に水。
いや、寝耳にワイン。
わたしは信じられない言葉を聞いたような気がして、上半身を起こすとギルガメッシュを見た。


「だ、だって……ぎるがめっしゅが、さけでものんで、まってろって……」
「ああそうだ。明日時臣が帰るまで、お前は我と飲み明かすのだ」
「そんなあ……」


大げさに崩れかかったわたしの体を、またもギルガメッシュが支えてくれる。
今度はその瞳に、子どものように無邪気な色を含ませて。


「我が守をしてやるのだ、今夜は寝るなよ」


そうか、わたしは図られたのか。

ギルガメッシュの目が楽しそうに細められたのを見て、わたしがその事実に気がついたときにはもう何もかも手遅れで。

翌日時臣が帰る頃には、空になったガラスケースの前で飄々としているギルガメッシュと、べろべろに酔って膝枕をしてもらうグラムの姿があった。




さあ、杯を持て
(うっ……だめ、吐く)
(12.4.15)
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ギルガメッシュとお留守番(^0^)
最初は邪な気持ちで書いていたので、そういうことになる予定でしたが
無邪気なぎるたんもかわいいよね(^0^)ということで。


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